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「数日間のできごと」Vol.1

〜マーカスとルディのエピソード〜

参考:水上澄子「花かざりの道」,「銀色のリフレイン」

by しい [2000.10.3]

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マーカス,コンサートで緊張する

「ホント、 そんなにキンチョーしなくても平気だよってくらいだったよね、 マーカスは」
「そうよ。 なにもあなたが演奏するのじゃないのにね」
 おばさん、 ジョディもそうは言うけどね。 ぼくは演奏会なんていうのはまったく今度がはじめてだったんだ。 それにしても演奏がはじまるまでの、 あの時。 人々のざわめき。 ぼくの中のこの気持ち。 ああいうのを―――胸がふくらむって言うんだろうか?
 ―――印象にのこったのは、 やっぱりなんといっても演奏のラストの曲だった。 サイラス=フォレスターという人がつくったという、 ピアノ協奏曲変ロ長調、 というのがそれ。 長調だとか何拍子とか、 プログラムをみても、 何のことだかよくはわからなかったけれど………とにかくほんとに、 きれいな曲という感じだった。 今にして思えば―――そう、 ぼくの大好きなロバート=ハリスンの、 ウイリアムおじさんの本を読んでいるときのような感じに似ていた。 ぼくらを招待したミス・シャロン。 きこえてくる心地いいピアノの音。 流れるような髪。 耳もわれんばかりの拍手と歓声。 それらはみんな、 ぼくの中からしばらく消えないでいた。

 うわ……うわあ!
「こんにちは、 あなたが、 マーカスね。 あなたのことはフェーブから聞いているのよ。 はじめまして、 シャロン・モーリアです」
 目のまえ、 ほんとに目のまえ!
 となりでジョディとフェーブおばさんが、 いたずらっぽく笑っていた。 「マーカスってば、 口がきけないでいるの?」 とジョディ。 よけいなことゆーなよな。 ミス・シャロンも何だかクスクスと。 何だかこういう感じ。 ふんいきとか―――。 思うんだけど、 ミス・シャロンのもつそれは、 どことなくウイリアムおじさんに少し似ているような気がした。
 たくさんの花束であふれた、 ひかえの部屋。 ミス・シャロンはまだフェーブおばさんと何か話をしていた。 ぼくはといえば、 何となく落ちつかなくて、 ずっと年下のジョディよりもソワソワとしていた。 ミス・シャロンの髪が、 そのしぐさのたびにフワリとゆれた。 ぼくの心もいっしょに。

「何で封をあけないの? とうさんからの手紙なんだろ?」
 関係ないじゃないか、 きみには。 言われなくたって読むときには読むんだから。
 はじめぼくは、 飛びあがってしまった。 このあいだの演奏会もプレーン村の近くだったし、 ミス・シャロンが後日、 この家までよるとフェーブおばさんから聞いたときには。 彼女は昔、 フォレスター家にも出入りしていたということを聞いて、 そのころの話やなんかを聞けるのも楽しみにしていたんだ。 でも、 そんなヨロコビもつかの間。 話はおじゃん。 ミス・シャロンのおじさんとかいう人の体の具合がよくないらしく、 彼女がそこにかけつけた。 せっかくだったんだけど、 でもまあしょうがない。 ―――でもさ。 それだからって何で、 コイツが家へやってくるっていうんだ?
 ミス・シャロンのステージが終わったあとで、 次々と花束が手渡されるなか、 こともあろうに彼女の両ほおにキスなんかしてみせたヤツがいた。 年はぼくとそんなにかわらなそうな少年。
 そいつ、 ルディがなんでまた、 ミス・シャロンのかわりだなんて言ってこの家に来たりなんかするんだよ?

「きみさ。 思っていることがすぐ顔に出るタチだろう」
 わかれば話ははやいってもんさ。 ―――ジョディの 『親戚だったかもしれない存在』 だか何か知らないけど。 ぼくはあんまり歓迎なんかしていないんだからな。
 こっちの態度に、 ルディはため息なんかついてみせていた。 どことなく表情は笑っていて―――なんだよ、 気にくわない!
「お茶のおかわりはどう? ルディ」
「ありがとう、 おばさん」
 なんできみがそんな呼び方? そりゃこのぼくだって血縁なんかじゃないけどさ。 ティーポットからカップへと注がれるお茶。 フン!
「マーカスは?」
「ぼくはいらない」
 どうかしたの、 とおばさんが小声でジョディにきいた。 首をふるジョディに、 ルディはカップを持ったまま意味ありげに目くばせなんかを。 何だっていうんだよ?
「そのりんごのタルト、 今回ぼくも作るの手伝ったんだよ」
「へえ。 いつもジョディはそういうの手伝うの? えらいよね」
「たまーにだよ、 ぼく」
「―――ぼくはピアノばっかりかなあ、 やっぱり」
 そりゃまたいいご身分で。
「ちゃんと味わって食べてねマーカス。 聞いてる?」
「聞いてるよ!」
「で、 どお?」
「何が!」
「だからぼくのりんごの………」
「知るかっ」
「ジョディ。 ―――いつもこういうのにたえてるの?  きっとたくましくなるよ将来きみは、 うん」
 あ?

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