よみの国研究所 > マンガ探偵団 > セントポーリアの村へ >  

水上澄子/作品紹介

最終更新:[2000.5.29]


『樫の木物語』 by HIT (1999.7.26)

 水上澄子さんの代表作『樫の木物語』の紹介です。

 この作品は、「なかよし」本誌ではなく、「なかよしデラックス」という増刊誌に、3号にわたって連載された作品で、私が個人的に選んだ「1979年のマンガベスト10・連載部門」の第一位に輝いた作品です。(何の権威もありませんが。)

 さて、お話は、イギリスの田舎町、プレーン村の裕福な家庭に育った心やさしいウイリアム・フォレスターの物語です。フォレスター家の小間使いの子として生まれたウイリアムは、母の死により、フォレスター家の養子として育てられます。事業を営む父と、厳格な母、やさしい兄サイラスと元気な兄ハロルドに囲まれて育ちますが、先天的な心臓病で「20歳まで生きられない」という体であることが分かります。更に出生の秘密を知り、ますます彼は孤独になって行きます。次から次へと運命は彼を弄び、次々と不幸が押し寄せます。しかし、何度かつまづきながらも、彼は自分の道を歩んで行きます。

 と、かなり暗いシリアスなお話です。しかし、ひとりひとりの人間の弱さをうまく描きながら、それでも希望を見つけ、強く生きていく姿を見事に描いたこの作品は、月並みな表現ですが、我々に生きる希望を与えてくれます。

 実際、ウイリアムのように、次々と不幸が襲ってきたとしたら、彼のようにやさしく生きることができるだろうか、と自問しながら読んでいました。

 タイトルの樫の木物語というのは、舞台のプレーン村の丘の上に何百年も立っている樫の木のことで、この樫の木には「願い事をかなえてくれる」という伝説があります。伝説にすがりつく弱い人間をやさしく描くことで、この波乱万丈のウイリアムの物語に大きな厚みが加えられています。

 一番印象的な願い事は、作品の終わり近くで語られたフォレスター夫人の願いでしょう。夫人が「私の願いは叶ったのよ。夫と結婚できますようにと。」と語るのは、金銭目当てと思われていた結婚が、実は夫人の願いであったという意外さは、人間どうしの関係の難しさを表しています。

 みんな幸せになろうと考え行動しているのに、結果的に自分や回りを不幸にしてしまう。そういうことは、程度の差こそあれ、誰でもあることです。それを乗り越えて、本当の幸せをつかむためには、自分が強くなること。そういうことを教えてくれる作品です。

 何かに迷って、生きる気力を無くしかけている人、感動のカタルシスを味わいたい人にお勧めします。

『樫の木物語』(講談社コミックスなかよし・新書判)

[ 作品紹介トップへ ]


『花かざりの道』 by HIT (1999.7.29)

 水上澄子さんの『花かざりの道』の紹介です。この単行本には、『花かざりの道』、『花屋敷からきみへ』、『キャンドルライト』の三作品が収録されています。ちなみに、この作品集は、この順番ではなく、『花屋敷から君へ』、『キャンドルライト』、『花かざりの道』の順に読まれることをお勧めします。

 『キャンドルライト』と『花かざりの道』は、前に紹介した『樫の木物語』と同じ『ウイリアム・フォレスターのシリーズです。

 『キャンドルライト』は、ウイリアムがロンドン郊外のホーズ・パブリック・スクールに通っていた頃の話です。ウイリアムと父の知り合いでもあるハリスン先生、そして、同級生たちの織りなす物語を丁寧に描いていくこの作品は、単独の作品として見ても一級品です。ちなみに、この作品は、増刊の「なかよしデラックス」ではなく、「なかよし」本誌に掲載されました。(ですから、「樫の木物語」を読んでおらず,キャンドルライトで初めてウィリアムを知った読者が大半だったと思います。)

 この、なかよし本誌に掲載された『キャンドルライト』は好評だったようで、その後、ホーズ・パブリック・スクールを舞台にした連作『ぼくたちの行進曲』がなかよし本誌に掲載されることになります。

 表題作でもある『花かざりの道』は、ウイリアム・フォレスターのシリーズの完結編ともいう作品です。深い感動をあじあわせてくれる作品としても高い完成度を持っています。私が個人的に選んだ「1980年のマンガベスト10・読切部門」の第一位に輝いた作品です。

 『キャンドルライト』にも出てきたウイリアムの友人が、子供を連れてウイリアムを訪ねるところから始まります。その瞬間から、最後の瞬間まで、人間のやさしさと弱さとさという水上澄子さんの永遠のテーマを、やさしいお澄さんタッチで描き切っております。とにかく、名前のごとく澄みきった感動を胸いっぱいに広げてくれる作品です。

 『花屋敷からきみへ』は、ウイリアムのシリーズではなく、普通のラブコメ(なのかな..)ですが、なかなか気楽に楽しめる、私も大好きな作品です。ちなみに、花屋敷というのは、阪急電鉄沿線の地名(雲雀丘花屋敷)とは何の関係もなく、舞台は例によって外国です。

『花かざりの道』(講談社コミックスなかよし)

[ 作品紹介トップへ ]


『銀色のリフレイン』 by HIT (1999.7.26)

 水上澄子さんの代表作『銀色のリフレイン』の紹介です。

 この作品は、「なかよしデラックス」に、第一部と第二部に分けて連載されました。単独作品としては、最長の長さを誇る作品です。実は、私が最初に読んだ水上作品は、この通称『銀リフ』こと、『銀色のリフレイン』でした。なんて繊細で、やさしい作品を描く作家だろうと思ったものです。

 お話は、ウイリアム・フォレスターの兄、サイラス・フォレスターの物語です。ウイリアムと同じで、自分のことより、他人のことを先に考えてしまう(私とは正反対の)心優しきタイプの彼は、文学の才能があったウイリアムと同じく、ピアノに天才的な才能を発揮します。しかし、彼の回りの環境、彼の性格などから、彼は結局ピアノ、音楽の世界には生きられず、別の道を歩みます。幼なじみで、いっしょに音楽の世界を行こうと約束していたシャロン・モーリアと別れて...。

 この話の主人公は、シャロンです。シャロンの目と心を通じて、悲劇の音楽家サイラスの物語を、深く、優しく奏でていきます。ウイリアムやクレアなど、『樫の木物語』に出てきた人物も重要な役割を果たします。(この作品の前に、樫の木物語を読んでおかれることをお勧めします。)水上さんお得意の優し過ぎる人物が織り成す、擦れ違いと葛藤、その他諸々の「人間くさい」物語が展開して行きます。

 天才的なサイラスのピアノに対して、シャロンのピアノは、決して技巧に凝るのではなく、ナイーブな音色が特色のピアノです。それをサイラスは、「音で愛をかたれる人」と表現しています。奏でる音は違い、才能も大きく隔たる二人ですが、求める音楽は、近いのです。音楽と、恋、二つの糸を軸にしながら、サイラスとシャロンの音楽のそして、恋の物語は進んでいきます。

 すでに、前作の『樫の木物語』で明らかになっているように、二人の恋は、サイラスの死によって、悲劇で終わります。しかし、二人の音楽は、悲劇では終わりません。サイラスとシャロンは、音楽の中に、そしてそれを聞いた人々の中に永遠に生き続けるのです。

 この作品を見ていると、水上さんは、本当にウイリアムやサイラスが大好きなんだな、と思います。ウイリアムは、運命にほんろうされながらも、フェーブと、息子と幸せな時を過ごし、文学作品を残したのに対して、サイラスは、その才能を発揮する間もなく、音楽も恋も未練を残したまま死んでしまった。自分の作ったストーリーながら、サイラスがかわいそうになり、この『銀リフ』を描いたのではないかと思います。

 サイラスのために、シャロンとの素敵な恋(とはいっても、水上さんらしく、波乱万丈の恋ですが)をちりばめ、そして、たった1曲を残すことで、サイラスの存在を残そうした、そうしたキャラクターに対する優しい思い入れが感じられる、素敵な作品です。

 音楽が好きな人も、そうでない人も。愛を求める人すべてにお勧めします。

『銀色のリフレイン(1),(2)』(講談社コミックスなかよし・新書判)

[ 作品紹介トップへ ]


[ 感想・投稿 | お茶とパイの店(掲示板) | セントポーリアの村へ | マンガ探偵団 | よみの国研究所 ]