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St.フェシティ号解体新書

最終更新:[2000.7.8]
 単行本未収録作品ながら,水上澄子さん唯一のSF作品として名高い「St.フェリシティ号は行く」の解説集です.作品理解の一助となれば幸いです.

 なお,当作品を現在読むには,古本で掲載誌を探すか,現代マンガ図書館か国立国会図書館を利用するしかありません.単行本化運動にもご協力をお願いします.

 少しでも多くの方に,水上澄子さんのすばらしさが伝わりますように...

by HIT (2000.7.4)


目次

St.フェリシティ号年表 by HIT (2000.7.4)

「宇宙船」St.フェリシティ号関係の年表です.

2160年St.フェリシティ5世号(移民船)宇宙空間で製造開始
2169年St.フェリシティ5世号(移民船)完成
2170年St.フェリシティ5世号(移民船)処女航海でエリダヌス座イプシロン星系へ
2183年St.フェリシティ1世号(調査船)地球-アルタイル間で消息不明
2184年St.フェリシティ3世号地球からαケンタウリ星系へ出航
2192年St.フェリシティ3世号αケンタウリ星系から地球に帰還(船内時間は2年経過)
2192年St.フェリシティ5世号(移民船)エリダヌス座イプシロン星系から地球に帰還(船内時間は2年経過)
2192年St.フェリシティ7世号(調査船)地球からアルタイル星系へ出航

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用語事典 by HIT (2000.7.8)

難解なSF用語をちょっとだけ分かりやすく解説します.(というつもりですが,果たして...)

光子(こうし.[英]photon)物質を形作る素粒子の一つ.簡単に言えば,「光の素」
光子力光子をエネルギーに使った場合の光子の呼び方
光年距離の単位.この世で一番速い「光」でも1年間かかる距離のこと.約9兆4,600億km.(といっても,ピンとこないか.)
時速200kmの新幹線なら,540万年かかる距離.(これもだめか.)
時速1万kmのサンダーバード1号でも,10万年かかる距離.(まだまだ.)
地上の重力で自然落下すると,33年目に到達する奈落の底までの距離.(これで,みんな納得.うんうん.)
亜光速光速(光が真空中を走るスピード.1秒間に約30万km)に近いスピード.どの位のスピードから亜光速か定かではないので,光速の10%程度しか出ない宇宙船のカタログで,「亜光速船」と言っても,公正取引委員会に訴えられることはない.光速の80%を越えたあたりは,亜光速といってもバチはあたらない.
ウラシマ効果亜光速で移動する宇宙船内では,時間の進み方が地上より遅くなるという現象.ウラシマは,もちろん童話の浦島太郎からの命名.(外国ではどう呼ぶのかは不明.)浦島太郎は,宇宙旅行をして,竜宮城は,宇宙にあった,という説もある.この故事(?)にならい,「宇宙旅行の前にいじめられている亀を助けると,乙姫様のような美女に会える」とか,「宇宙旅行から持ち帰った箱は絶対に開けてはいけない」というようなジンクスが22世紀にあるかどうかは,定かではない.詳細は別項参照.
飛行用オート22世紀の空を飛ぶ自動車.どんな原理で飛んでいるのか,よく分からない.自動車の中に風船が沢山入っているといううわさもある.
チキンスープ22世紀の朝食の定番メニューのひとつ.他には,キチンスープ,チンキスープなどがある.
星虹(スターボー)亜光速で飛行中の宇宙船の中から星を眺めると,宇宙船の後方の星が前方に回り込んできて,前方に星が集まり,前方の星は青く,後方の星は赤くなり,円形の虹のように見える現象.前方に星が集まるのは確かだが,色分けにはならないという説もある.

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宇宙船の推進方式 by HIT (2000.7.8)

ちょっと真面目なロケット推進方式の解説です.

1.化学反応ロケット

 何もない宇宙空間を進む宇宙船の加速原理は,「何か物を勢いよく捨てて,その反動で進む」というロケット方式しかありません.ですから,宇宙船の窓から,全員が同じ方向におならをしても,宇宙船は進みます.でも,それでは効率が悪いので,もっと勢いよく捨てるために,なにかを燃やすのが一番てっとり早いです.現代の宇宙船は,すべて,何らかの燃料を燃やして(つまり化学反応によって)動いています.

 しかし,この化学反応方式では,あまり遠くに行くことはできません.なぜなら,エネルギー効率の悪い化学反応方式では,燃料の量が大きくなり過ぎるからです.燃料の量が大きくなれば,もっと沢山燃料を燃やさないとスピードが出ない,更に燃料が必要,となって,いつまでたっても,十分な加速が得られない訳です.

2.原子力ロケット

 化学燃料の次に考えられているエネルギー源は,原子力です.つまり,核反応(核分裂,核融合等)によって爆発を引き起こす方式です.火力発電と原子力発電の燃料の大きさの違いを考えると分かるように,原子力ならば,小さな燃料で,大きなエネルギーを得ることができます.より遠くへ行くためには,原子力船の実用化が必要不可欠でしょう.

 しかし,原子力船でも,恒星間旅行には,まだ無理です.一番近い恒星系であるαケンタウリへの距離は,太陽系内の一番遠い惑星である冥王星までの距離の7000倍もあるのです.7000倍というと,近いみたいですが,冥王星まで1年かかる宇宙船で,7000年かかるということですから,相当な違いなのです.これでは,石油タンカーで,コップ一杯の水を運ぶような,何も運べない宇宙船になってしまうでしょう.

 ちなみに,原子力船といっても,地球を飛び立つ時から,原子力を使って飛ぶ訳ではありません.核反応生成物質(いわゆる死の灰)が恐いので,地球近郊では,普通の化学反応ロケットとして飛びます.

3.光子力ロケット

 そこで,考えられる新エネルギーを使った宇宙船が,物質・反物質の対消滅(ついしょうめつ)の原理を使った光子力船です.反物質というのは,我々の世界に広くある物質(正物質といいます.)と,性質はほとんど同じで,ある物理的性質だけが正反対のものです.例えば,陽子(ようし)には,反陽子,中性子には,反中性子,電子には陽電子といったペアの反物質が必ず存在します.

 正物質と反物質が反応を起こすと,プラスとマイナスが丁度打ち消しあうようにどちらも消滅(対消滅といいます.)してしまいこの世からなくなってしまいます.このとき,膨大なエネルギーが光子という形で放出されます.この光子を大きな反射鏡(光なんですから,鏡で反射できるのですよ.)で,一方向に押し出せば,反動で宇宙船が進むという訳です.

 ただし,原理的には,最小の燃料で最大のエネルギーを取り出せる方式であるのですが,いろいろと問題もあります.何しろ,反物質というのは,放っておくと,すぐに手近の正物質と反応して爆発してしまいますので,うまく反物質を蓄えて置かなければならない,などの問題があります.反物質燃料の扱いをちょっと間違えれば,それこそ,宇宙船そのものが対消滅してしまいます.St.フェリシティ1世号の事故が,まさにこのタイプの事故だったのです.

 ちなみに,光子ロケットはその反応のすさまじさから,太陽系内では,光子力では飛びません.原子力で飛ぶことになります.

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ウラシマ効果 by HIT (2000.7.8)

SF作品でおなじみの「ウラシマ効果」とは?

 ウラシマ効果とは,亜光速で移動する宇宙船内では,時間の進み方が地上より遅くなるという相対性原理が予言するパラドックスです.素粒子レベルでは,実験等でこのような現象が起こることは確認されていますが,人が乗るような宇宙船レベルでも同じことが出来るかどうか,実際に体験した人がいないので,本当かどうかは分かりません.

 相対性理論によると,物質の速度が,光速に近づけば近づくほど,時間の進み方は遅くなります.速度と,時間の遅れの割合は,以下のようになります.(宇宙船が一定の速度で移動している場合.)

速度/光速時間の遅れ
1%0.005%
10%0.5%
30%5%
50%13%
70%29%
80%40%
87%50%
90%56%
95%69%
97%75%
99%86%
99.5%90%

 宇宙船の速度が光速の1%の時では,時間はたった0.005%しか遅くなりません.1年間で26分の遅れですから,精度の悪い時計程度ですね.光速の1%というと遅そうですが,時速1千万kmという,超音速機の1万倍の猛スピードです.日常のスピードでは,全く時間の遅れを気にしなくてもいいのが,よく分かるでしょう.ちなみに,航空機でしょっちゅう移動しているパイロットやキャビンアテンダントは,つねに地上にいる人より,年間で数分の1秒の時間の遅れが発生することになりますが,それを図るのは,波平の髪の毛の数を数えるより困難なことです.

光速の80%を越えるあたりから,時間の遅れは,顕著になってきます.St.フェリシティ3世号は,「地球時間8年で,内部時間4年」といっていますから,時間の遅れは50%.つまり,光速の87%程度の速度で航行している計算になります.(実際には,宇宙船は定速で走っている訳ではなく,加速減速しているので,このままの計算にはならない.)同様に,「地球時間22年,内部時間2年」のSt.フェリシティ5世号は,時間の遅れが90%ですから,光速の99.5%を出せる「優秀な船」といえます.

 ここで,鋭い人は気が付いたと思いますが,光速の87%で飛ぶSt.フェリシティ3世号では,地球-αケンタウリ星系間4.3光年を往復するのに,8年では無理です.10年はかかる計算になります.つまり,「St.フェリシティ号は行く」の記述は間違っていることになります.(St.フェリシティ7世号の方は,辻褄はあっている.)

 辻褄を合わせるためには,年数を「地球時間8年,内部時間4年」から,「地球時間10年,内部時間5年」にするか,St.フェリシティ3世号の推力をアップして,光速の97%まで上げ,「地球時間8年(正確には8.9年),内部時間2年」にするしかありません.まあ,ちょっとした計算ミスだと思います.(そう,水上澄子さんは,悪くない.)

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