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マンガ探偵団/なんでもレポート

最終更新:[2000.5.3]


SFマンガ最後の光芒・吾妻ひでお by HIT (2000.5.3)

NHK衛星放送のマンガ夜話で吾妻ひでおを今日取り上げる予定(バスジャックという大事件が起こっているので,変更になるかもしれませんが,)というので,マンガ家・吾妻ひでおについて,考えてみました.ちなみに,私も,吾妻ひでおの単行本は,50冊以上持っている,自称ファンです.

 NHK衛星でとりあげる「不条理日記」は,SF好きの作者が半分冗談としか思えない状況で書いた作 品で,SFを知らない人には,何がなんだか分からない,それこそ不条理作品 ですが,SFファンには,隠されたSF作品のパロディがたまらない,というい わば,SFファン仲間の楽屋落ち作品です.そんな作品がこれほどの熱狂的ブーム(最終的に「ななこSOS」や「オリンポスのポロン」がアニメ化されてしまなんて,正気のさたとは思えない...)になったのは,すでに始まっていた「SFマンガ冬の時代」の中のちょっとした小春日和をSFファンが吾妻ひでおに見出したからではないかと思っています.

 かつて,手塚治虫を初めとした,戦後のマンガの中心は,空想科学マンガともいうべき,SFマンガでした.しかし,科学技術の発達に伴って,SFマンガは,その地位を滑り落ち,少年マンガでも,少女マンガでも,ほとんど描かれなくなって来ていました.

 ちなみに,本家の小説の方でも,この時代には,SF小説は,ほとんど書かれなくなってきています.これは,書く人がいなくなった,というよりも,やはり,時代がSFを表舞台から引き摺り下ろす環境にあった,という方が正しいでしょう.実は,この時期,SF小説雑誌が次々と発刊されるなど,表向きはSFブームだったんですが,その実は,SFマインドを薄めたような作品ばかりで,真のSFファンは,うんざりしていたところだったのです.もちろん,SFに興味のない一般読者は,SF小説雑誌が多数発刊されようと,なんら影響はなく,SF小説は,拡散の中で,静かに終末に向かっていました.

 そんな,時代,一人の中堅マンガ家のSFパロディ作品が,くすぶっていたファンの心に火を付けたのです.古き良きSF時代の香りを残し,楽屋落ちで,ファンの心をくすぐるこのマンガ家に,SFファンたちは,「最後の光芒」をみたのです.

 一部のSFファンの間で火がついた吾妻ひでおブームは,美少女ブーム(吾妻ひでおの描く少女はかわいい.一度SFと美少女の深い関係を考察してみないと...)とつながって,とてつもないものとなりました.単行本未収録作品は,次々と出版され,(今はなき,「奇想天外コミックス」とか)楽屋落ちではないSFマンガ(「メタルメタフィジーク」等)も次々と書き下ろされました.私も,次々と,むさぼるように吾妻ひでおを読み漁っていたものでした.

 しかし,このブームも長くは続きませんでした.なまじっか,本格的SF心があるがために,エンターテインメント面での妥協を許さなかった吾妻ひでおの作品は,アニメが放映される頃(1984年頃?)には,下火になっており,急速にしぼんでいきました.これ以降,SFマンガがブームを呼ぶことは一切なく,吾妻ひでおは,文字どおり「日本SFマンガの最後の人」という称号を手にしたのです.

 今,冷静になって,吾妻ひでおの作品を読み返してみると,本格的SF作品というのは,彼の作品群の中では,本流ではなく,また,あまり得意であったとも思えない分野でした.星野之宣なんかの超本格的SFマンガと比べるとどうしても見劣りしてしまいます.私が吾妻ひでおの作品で一番好きなのは,少年チャンピオンに連載されたどけちコメディの「チョッキン」ですが,こうしたコメディ系統が,彼が本領を発揮する得意分野であり,中心分野であったはずです.けれど,SF系統から火がついたために,彼自身も自身の方向性を見失ってしまったのではないでしょうか.ことほどさように,ブームというのは恐いものです.

 1980年代前半に,突如巻き起こって,そしてSFマンガの幕引きと同時に消えていった吾妻ひでおブームをNHKがどう料理するのか,非常に興味があります.

#現在放映されている唯一のSFアニメ「ドラえもん」が終了するときが,本当の「日本SFマンガのお葬式」なんだろうな,としみじみ思うHITでした.

##ちなみに,米子の本通り(今井書店本通り店のすぐ近く)にあるマンガ中心の古本屋さんには,高価買い取りの例として,吾妻ひでおが並んでいる.今でも探している人がいるんだな,と思う今日この頃でした.

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