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太刀掛秀子/作品紹介

最終更新:[2000.9.27]


文庫版「ふたつのうた時計」 by HIT [1998.11.2]

 集英社文庫から、太刀掛秀子さんの作品が同時に2冊出版されましたので、思わず買ってしまいました。「まりのきみの声が」と「ふたつのうた時計」の2冊です。

 実のところ、太刀掛秀子さんの単行本(りぼんマスコットコミックス)は、すべて持って大事に保管しており、特に買う必要がないといえばないのですが、つい買ってしまいました。少しでも作者の印税になってもらえば、という気持ちもありました。ファンですから...。

 「ふたつのうた時計」を買った理由ですが、実は、中に収録されている『吉住くんのこと』という作品を単行本で持っていたかったからです。この作品は、非常にいい作品なんですが、何故か単行本未収録で、前から欲しいと思っていたのです。

 もちろん、私もファンですから、この作品の初出の「りぼん1982年5月号」も、総集編として再掲された「ぶ〜け」も持っています。しかし、古いマンガ雑誌を保管している人は分かると思いますが、マンガ雑誌は、古くなると、インクが裏に透けてしまい、読むに耐えなくなります。粗悪な紙を使っているためですが、そのおかげで安い金額でマンガが読める訳で、致し方ないかも知れませんが、ファンには困った事です。すべての作品が単行本化されれば、いいのですが、そうもいかないでしょうし...。

 さて、やっと本題に入りますが、この文庫「うたつのうた時計」は、比較的後期の以下の5作品が収められています。

「ふたつのうた時計」
「くりねずみ物語」
「青いオカリナ」
「ひとつの花も君に」
「吉住くんのこと」

 このうち「青いオカリナ」と「ひとつの花も君に」は、他の作品とは違った毛並みの作品で、前者は、ヨーロッパの時代もの、後者は、作者及び雑誌(りぼんオリジナル)に珍しく、高年齢(といっても20歳代前半)の主人公の挫折のお話しです。

 他の3作品は、学校生活での「初恋もの」を扱った作品です。特に表題作の「ふたつのうた時計」と「吉住くんのこと」は、テーマも、モチーフも話の流れも良く似ています。(それが『吉住くんのこと』が単行本収録からもれた理由だと思ってます。)

 私は、どちらかというと、後者の初恋もの方が好きで、あの何ともいえない「胸がキュンとする」感じがたまりません(男の私が言うと何だか変態みたいですが)。

 太刀掛さんというと、大ヒット作の「花ぶらんこゆれて...」に代表される大河ドラマ的な起伏に富んだストーリー展開が思い出される人も多いでしょうが、実は、こうした初恋にゆれる少女の心理を描くのも巧みな人で、初期の作品にもいくつもの秀作があります。このタイプの作品の後期の秀作は、文句なく、表題作の「ふたつのうた時計」と「吉住くんのこと」の2作品でしょう。

「ふたつのうた時計」は、

 主人公の少女には、感じ方も考え方もぴったりあう気の合う男友達ができました。女友達は、カップルだとかはやしたてますが、そんな安っぽいものではなく、もっと純粋なものだと、二人とも感じていました。
 ある日、少女は、彼から「好きだ」と告白を受けます。しかし、好きという言葉を言ってしまうと、いままでのいい関係が壊れるような気がした少女は、「友達として」と言ってしまいます。次の日、遠くに彼は転校してしてしまいます...。

 畳みかけるように、二人のほほえましいエピソードが、優しく描かれ、少女と少年の「初恋」を語っていきます。告白シーンで、少女が、私も好き..と返答しようとした瞬間に感じる何かに縛られて、自由がなくなる感じの描写は見事です。さすが、表題作となるだけのことはあります。主人公の少女も相手の少年も、おもいっきりかわいいですし、もちろん、結末はハッピー・エンドです(^^)。

「吉住くんのこと」

 主人公の太田時子さんは、高校を卒業して地元の大学にかよう女子大生。ある朝、高校時代の同級生の吉住君から夢の中でプロポーズを受けて、目を覚まします。吉住君は、彼女の親友、そよ子の彼氏でした。吉住君のそよ子への思いを最初に気がついたのは、時子でした。ふたりがつきあい初めても、3人でいつもはしゃいでいた高校時代も終わり、3人はそれぞれ別の街へ...。
 その日、そよ子がやって来て、吉住君と別れたことを聞き、自分の吉住君への本当の気持ちに気がついた時子は、駅の公衆電話へと走ります...。

 私が推薦することで分かるように、もちろん、ハッピー・エンドです(^^)しばらく離れていて、本当の気持に気が付くところなど、「ふたつのうた時計」と似ていますし、時子さんと吉住君の感じ方や考え方が似ていることなども、似ています。太刀掛さんが、こういったお話しが好きなんでしょうね。主人公の太田時子さんはとても魅力的です。

 エピソードを淡々と重ね、なおかつそれらを暖かいベールで包んだような雰囲気が作品中に流れ、読んだ後に幸福感を満たしてくれます。

 太刀掛さんの、珠玉の作品を堪能したい人、昔の少女マンガを読んでみたい人にどうぞ。

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文庫版「まりの きみの声が」 by HIT [1998.11.4]

 少女マンガ雑誌「りぼん」を代表する作家太刀掛秀子さんの最高傑作、私の個人ランキングでは、80年代最高の少女マンガである「まりのきみの声が」が集英社文庫に収録されました。りぼんマスコットコミックス版はすでに持っていますが、この機会に、文庫本も購入してみました。

 私って、同じ作品を何冊も揃えるほどマニアではない(お前がマニアじゃなきゃ、誰がマニアだ、という声あり)ので、2冊以上もっているのは「古本屋で買った本が古くて痛んでいた」水上澄子さんの『樫の木物語』だけです。(絶版だったけど、市内の小さな本屋に在庫があった。)痛んでもいないのに、同じ作品を買ったのは今回が初めてです。

 でも、良かった。太刀掛さんのかわいらしい『まりの』のしおりが入っていたんで、これだけでも620円を払った甲斐があるというものです。もしかすると、しおり欲しさに、まだ2-3冊買うかも知れません。(ほんと、マニアって...(^^))

 主人公の彼は、第一志望を落ちて第二志望の大学に入った。失意のうちに、目的のない生活を送っていた彼に、ひとつ年上の「まりの」が現れる。そのおおらかで聞くものを引き付ける声で「目標に向かって一歩一歩近づきましょう。」と励まされ、彼は人形劇の世界へ。
 まりのたちとの楽しいサークル活動を経るうちにまりのに引かれているのに気がつく彼だが、まりのと団長の強いきずなを感じ、切ない思いを過ごします。そのうち、まりのは、テレビにスカウトされて、人気者へ、みんな離れ離れになっていくが...。

 太刀掛さんの作品では、めずらしく実質的主役であるまりのは、美人ではありません。作品内の設定もそうですし、実際に描かれたものも、そうです。最初にまりのが登場したシーンでは「なんでこんなキャラが主役なんだろ」と正直思ったものです。でも、読み進むうち、まりのがどんどんきれいに見えてくるから不思議です。キャラクタの内面がにじみ出て、その魅力を読者に語りかけてくるからでしょう。

 いちおう、主人公の青年とまりの、団長の恋(?)の話も出てきますが、このマンガの主題は、恋愛ではありません。目標に向かって行く力強さ、そしてそこから生まれる人間的な魅力、こうしたものが物語のテーマです。

 形式上の主人公は男性の善美君です。この作品を読んだ時、私もこの主人公と同じ状態で、「いったい俺は何をしているんだろう」とモンモンとした日々を過ごしていました。自分の姿と前向きに行きはじめた青年の姿を重ねて、何回この作品を読んだことでしょう。私が、いまこうして毎日生きているのも、この作品に出会えたからで、もし、出会っていなければ、どこか遠い街でのたれ死にしていたかも知れません。その位、私の人生に 大きな影響を与えた作品です。

 最終回で、主人公の青年が毎日聞いていたまりのの声のテープが切れてしまうシーンでは、あまりの切なさに、主人公とおなじく涙したものです。「夢と出会った1年間」とナレーションが続きますが、主人公にとっても、私にとっても、まりのは夢であり、希望でした。

 作品中に出て来た童話、安房直子『きつねの窓』、ノーソフ『ネズナイカの冒険』の2冊を探して、仙台中の本屋さんを自転車で回ったのも今となっては、楽しい思い出です。(両方とも手に入れました。)

 この作品が『りぼん』に連載されたのは1980年ともう20年も前のことになります。しかし、今読み返してみても、決して古さは感じません。

 私は以前から、この『まりの』のアニメ化作品、実写作品を見てみたい気がします。声が売り物の作品ですから、まりのの声をどうしても聞いてみたいのです。でも、アニメ化やドラマ化してみて、まりのの声のイメージがかけ離れていたら、「違う。まりのはこんな声じゃない。」と文句をいいそうですけど。

 ドラマも原作をマンガに頼る時代ですし、女の子向けアニメが不作で、アラレちゃんなどの古いアニメをリメイクしている時代です。不朽の名作『まりの』のアニメ化、ドラマ化はできないものでしょうか。

 同時収録作品は「べべ、ピアティ」です。この作品もなかなかのもので、かわいくて、たくさん泣けて、最後に幸福な気持ちになります。ぜひお試しあれ。

 ちなみに、この作品「ベベピアティ」は、私が初めて読んだ太刀掛作品です。清原なつのさん目当てで読んでいた「りぼんオリジナル」で出会ったものですが、カラー表紙のアンティーク・ドールの美しさに一時間以上見とれてしまいました。

 その後しばらく、アンティーク・ドールを機会あるごとに見るようにしていましたが、実物でも、写真でも、太刀掛さんの描くアンティーク・ドールほどきれいなものに出会った事はありません。

太刀掛秀子『まりのきみの声が』(集英社文庫コミック版。定価620円)

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絵本「青い鳥」 by HIT [1998.11.4]

 太刀掛さんの一番の特長は、あの絵ですよね。特にカラーページのすばらしさは、何ともいえません。じーっと見ていると、引き込まれてしまってしばらくこっちの世界に戻ってこれなくなってしまいます(^^)

 この本は、マンガではなく、確か集英社が思い付きで(証拠ないけど)、マンガ家に絵本を書かせたシリーズのものですよね。太刀掛さんのカラーが全ページ見られるというので、購入して、大切に保管してあります(実家に...)。

 わが家には女の子が二人いるんだから、持って帰って読ませてやればいいとも思いますが、落書きされたり、ページを破られたりするかもしれない、と思うと、ちゅうちょしてしまいます。こんな事なら2冊買っておいて、1冊は読むために、もう1冊は保存用にすればよかったと悔やまれます。やっぱり、俺ってマニアかなぁ...。

「集英社ファンタジー・メルヘン・シリーズ」
メーテル・リンクの『青い鳥』(画:太刀掛秀子)

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