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松本洋子さん/作品紹介

最終更新:[2000.4.12]


『シンデレラ特急(エクスプレス)』 by HIT (1999.5.6)

 なかよしでサスペンスやオカルトマンガを中心に活躍する松本洋子さんの、初期のサスペンス・コメディの傑作である表題作と、単行本収録作品中唯一のサスペンスでもオカルトでもない、普通のマンガである『灰色半分・恋半分』が収録されています。

 『シンデレラ特急』は、作者が初めて連載したサスペンス・コメディで、後の傑作『ストロベリー探偵団』や、『すくらんぶる同盟』の原点とでも言える作品です。お話しは、地中海に浮かぶインペリアル王国の王妃に招かれた万里(15歳)が、王国のお家騒動にまきこまれる、というものです。

 松本洋子さんのサスペンス・コメディーの一番いい点は、「テンポがいい」点です。次から次へと事件が起こり、笑いとスリルの中でストーリーがテンポ良く展開されて行きます。息をも付かぬ、というとオーバーですが、小気味良いテンポに、読者も酔いしれるのです。

 笑いとスリルのバランスも絶妙で、若干笑いに振ったこの比率が、テンポの良さをあいまって、この作品のいい意味での「軽さ」を出しています。

 松本洋子ファンならずとも、サスペンス・コメディ大好きな人なら、是非とも読んでみて下さい。

 同時収録作品の『灰色半分・恋半分』は、私の知る限り、作者の単行本収録作品中,唯一の普通の作品(サスペンスでもオカルトでもない、という意味)です。雑誌で読んだ時も、びっくりしました。作品中にも、『またオカルトマンガなわけ?』とあるように、作者自身、自分がオカルトマンガ専門と思われている事は承知の上で、オカルト以外の作品がどうしても描きたかったのだと思います。

 これが読んでみると、どうして、なかなか少女マンガしているのです。とかく、松本洋子さんというと、サスペンスやオカルトがイメージされ、恋愛描写が少ない作家という評判ですが(私が言っているだけ?)この作品や、『もうひとりのあたしへ』(KCなかよし「ばらの葬列」に収録)を見ていると、もっと、こういう面を作品に反映したらいいのに、と思ってしまいます。やはり、読者や編集者が、松本洋子さんには、普通の恋愛描写よりも、サスペンスやオカルトを求めてしまうから、仕方ないのでしょうか。

 ただ、最近作のオムニバス連作『闇は集う』の中には、多様な恋愛描写が描かれるようになっていますので、この点については、心配はいらないようです。

 ところで、作品とは、直接関係ありせんが、『灰色半分・恋半分』の中に出てくる小犬の名前「ぱぴる」が、最近作『闇は集う』第20話『Good-by my dear』(KCなかよし「闇は集う」第6巻に収録)では、ぬいぐるみの名前 として出てきます。珍しい名前なので、多分元になるものがあるのでしょう。作者が昔飼っていた犬の名前かなにかでしょうか。

「シンデレラ特急(エクスプレス)」講談社KCなかよし、松本洋子著

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『ストロベリー探偵団』 by HIT (1999.5.24)

 お待たせしました。松本洋子さんのサスペンス・コメディの最高傑作、『ストロベリー探偵団』の紹介です。

 主人公のサニーは、孤児院「ストロベリー・ホーム」で暮らす探偵志望の女の子。ゆかいな仲間に囲まれながら、楽しく暮らしていたが、ひょんなことから、殺人事件の容疑者をかくまうことに。ホームの存続をかけ、真犯人探しに精を出すサニーだが、警察官志望のウォルターや、マフィアのボスの息子アールがからんで、推理も恋も、こんがらがってしまって...。

 というストーリーです。これだけ書くと、なんのことはない、コメディなのですが、何しろ、テンポがいい。キャラクタが生き生きしている。サスペンスの要素もばっちり。これで面白くないはずがない、というほどの傑作なのです。

 まず、キャラクターですが、作者も作品中で、「これ以上登場人物が増えたら作者死ぬぜ」と発言しているとおり、ホームの仲間をはじめとして、沢山のキャラクターが登場します。しかし、どのキャラクターも、自然に生き生きと振る舞って、ストーリーを進めて行きます。そこがすごい。

 また、サスペンスとコメディのブレンドも適度で、緊張のシーンの次に、笑えるシーン、はたまた、笑いのシーンの次に、ほろりと泣けるシーン、と緊張と緩和をうまく配置し、読者を飽きさせません。

 そして、松本洋子さんの最大の特長である、テンポの良さが光ります。次から次へと事件が起こり、謎解きに、恋にとストーリーがサクサクと進展して行きます。ハラハラ、ドキドキ、この感覚は、くせになります。

 私は、この作品は、単行本ではなく、雑誌連載(「なかよし」85年3-8月号)で読みましたが、この作品ほど、次の号が待ちどおしかった作品は他にありません。(他は萩岩睦美『銀曜日のおとぎはなし』位かな。)連載が進んで来ると、ストーリー展開から、当然ながら最終回が近い事が伝わってくるのですが、続きが読みたいという気持ちと裏腹に、「終わらないでくれ」という、無理な願いとともに、一抹の寂しさを覚えたものです。

 印象的なシーンもいっぱいあるのですが、あえて選ぶとすると、以下の二つです。

 まずは、アールにひどいこと言われたサニーが、落ち込まずに、大声で笑うシーンです。笑いながら「ぜんぜんさびしくな....」と言ったあと、ほろり、と涙を見せてしまうのですが、サニーの強さと弱さがうまく表現しています。元気少女サニーの意外な一面を見た瞬間です。

 もうひとつは、サニーとウォルターが留置所(!)の中で一夜を明かすシーンです。

「二人で真犯人 ぜったい みつけようね」
「うん」
「ぬけがけ なしよ」
「……ん」

という色気のない会話の後に、二人は寄り添って眠ってしまうのですが、その幸せそうな姿は、読者も幸せな気分にしてくれます。それまでちりばめられた二人の淡い恋心を示すエピソードを思い出しながら、このシーンをじーっと眺めていると、すてきなラブシーンに見えてくるから不思議です。こんな形のラブシーンも、松本洋子さんならではですね。

 以上、『ストロベリー探偵団』のすごさを一部紹介しました。でも、私の拙い文章ではこの作品のすべてを伝えることはできません。皆さん、ぜひとも手にとって、読まれることをお勧めします。サスペンスが好きな人、コメディが好きな人、ハッピーエンドが好きな人、その他すべての少女マンガファンにお勧めします。

「ストロベリー探偵団」講談社KCなかよし

# ちなみに、この作品は、私が就職した年に連載されており、同期の者の集まり(同期会)の名称を「ストロベリー探偵団にしよう」と提案した覚えがあります。もちろん、却下されましたが...。

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『闇は集う』 by HIT (1997.5.12)(1999.9.20訂補)

 大ファンの松本洋子さんの最近の作品『闇は集う』を読みましたので感想を述べます。
 これは、松本洋子先生得意のオカルト系(?)の一話完結ものです。未練を残して死んだ惑える魂が集う不思議な場所を守る「番人」を狂言まわしに、生と死をとらえた傑作です。ヨーコ先生の一話完結形式では、『すくらんぶる同盟』という学園オカルトものの傑作があります。学園という設定のため、制限が大きいかった(それでも最後は異次元世界に飛ばされたりして、好き勝手していましたが。)ですが、今回の話は番人という半ば万能の狂言まわしがいますから、かなり自由に話を構成できるようで、松本洋子先生ものびのびと作品を描いているようです。
 現在3巻まで購入して読みましたが、一番印象の残っているのは、2巻の後半にあった、両親の離婚に揺れ、番人の所にやって来た幼稚園の女の子の話です。最後は番人や他の人の力でハッピーエンドで終わるのですが、両親の仲直りを望む女の子の姿は、胸を締めつけられました。もしかして、丁度娘が同じ年ごろだからかも知れません。年をとり、人生経験を積むと、同じマンガも感動を受けるところが変わってくるのでしょうね。
 という訳で、かなりのお勧め作品です。松本洋子ワールドを堪能してください。

『闇は集う』1-8巻(1999.9現在)KCなかよし・講談社

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『君が君であるために』 by HIT (1999.9.20)

 Hotさんに指摘されて、読み落としていた最近作『君が君であるために』を入手して読みましたので、感想を。

 読後の感想をひと言でいうと『よく考えられた、奥の深い、すごい作品』(私って、ボキャブラリーが貧困...)です。

 ストーリーは、高校生の真海(まさみ[男])と祥悟は、同級生なんだけれど、祥悟は、まるっきり真海の保護者みたいな状態。でも、小犬のショウを拾ったことから、真海の隠れた力が明らかになっていき、悲劇が始まる...。というものです。

 松本洋子さんは、サスペンス&ホラー・マンガの大家ですが、時々、超能力を扱うことがあります。超能力を扱った最初の作品は多分『鏡のむこうに…』(KCなかよし「殺人よこんにちは」に収録)でしょうが、『殺意のメッセージ』、『死を唄う星座』など、超能力ものは、例外なく傑作ぞろいです。この作品も例外ではありません。いや、松本洋子さんの超能力ものの最高傑作といっていい作品です。

 わたしゃ、元々SFファン(超科学研究同好会にも所属していた)ですので、SFネタである「超能力」をマンガで扱うことについては、結構うるさいです。ストーリーに何の必然性もないのに、目新しさだけのために超能力を持ち出すマンガがいかに多いことか。また、サスペンスなどの「謎解き物」において、前提条件を根底からひっくり返す超能力を謎解き時にトリックとして持ち出すのは、『ルール違反』であり、興ざめしてしまいます。そんな安易な超能力ものマンガなんて、読みたくありません。

 その点、松本洋子さんは、超能力の扱い方が大変うまく、ストーリーの必然性、謎解きのフェアさもクリアしており、SFファンでも安心して読めます。ただし、今までの作品は、すべて「謎解きもの」であり、超能力が話の中心ではありません。一度、松本洋子さんにSFを描いて欲しいと、実は私は思っていたのです。

 この作品は、単行本裏表紙の作品紹介には「サイコホラー」となっていますが、実のところ、「謎解き」の楽しみはほとんどなく、真海の超能力にさらされた祥悟の恐怖と葛藤、更に自分の力を持て余す真海の葛藤を描いたものです。私がもしこの作品を分類するとしたら、「超能力SF」に分類するでしょう。SF作品として見た場合にも、相当の傑作です。

 また、この作品は、真海と祥悟の心の葛藤を描くことで、「人間とは何か。自己とは、自我とは」という人間の根源的なものを考察する『哲学マンガ』でもあります。タイトル自身がいかにも哲学的ですし、三部構成のそれぞれの部の名前『僕が僕であるために』、『僕が君といるために』、『君が君であるために』もよく考えられた哲学論文の章名のようです。

 超能力という絵空事を用いていても、人は、多かれ少なかれ、他人を自分の意のままに従わせようとしてみたり、他人の意のままに動かざるを得ないようなシーンは、人生の中に絶対に出てきます。そうした際に、自分が自分でいるために、相手が相手であるためには、どう振る舞うべきかも、この哲学マンガはやさしく教示してくれます。

 このように、この作品は、いろいろな見方ができる、非常に奥が深い、大傑作です。松本洋子さんが、謎解きにこだわらず、SF作品としても、哲学的作品としても一級品の作品を仕上げることができたとは、正直言って思いませんでした。(松本洋子先生ごめんなさい。)松本洋子先生の才能のすごさを、あらためて再確認した作品です。今後も、謎解きもの以外の、こういった作品を読んでみたいと思いますので、松本洋子先生、よろしくお願いしますね。

『君が君であるために』KCなかよし・講談社・新書判

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