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松本洋子『闇は集うの彼方へ』

最終更新:[2000.4.19]
 松本洋子さんの代表作『闇は集う』の世界を多面から解析するレポートです.作品理解の手助けになる...かな?

内容



『闇は集う』の階層世界 by HIT (2000.4.18)

 『闇は集う』は,ある世界観にしたがって構築されています.まずは,その世界観を探ってみましょう.

 この世界を明示的に説明したセリフ等は,作品中どこにもありません.でも,ところどころに,説明がちりばめられています.いくつか上げますと,

 以上の情報を総合すると,この『闇は集う』の世界は,以下の3階層に別れているといえます.

 魂は,まず『現実世界』にいます.そして死ぬことによって,普通は『無の世界』に行きます.ただし,往生際の悪い魂は,あの世に行かずに,中間の『闇の世界』に留まることがあります.闇の世界に迷い込んだ魂には,以下の三つの結末が待っています.

 このうち,現実世界に戻るのか,無の世界に行くのかを判定するのが,『番人』の役割です.

 これを図示すると,以下のようになります.


現実世界

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無の世界

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闇の世界
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 すなわち,現実世界から,無の世界への一方通行を,一部差し戻すという「フィードバック」機能を有するのが,闇の世界の「番人」なのです.

 以上が,この物語のこの3つの世界の相関図です.これを見て分かるのは,この物語の主人公は,『魂』である,ということです.魂こそが,この3つの世界をつなぐことができ,また,魂のためにこの3つの世界があるといっても過言ではありません.

 ちなみに,この世界観は,松本洋子先生が良く使われるキリスト教的世界観とは,全く違います.キリスト教的世界観にも,現実世界と,死後の世界,そしてその中間の世界が登場しますが,死後の世界は,魂が集うところであり,中間の世界は,自殺等をして死後の世界に行けない魂が悪霊になったりするところ,という設定です.(『見えないシルエット』等)

 万能の神がいないこの世界観は,若干東洋的な世界観を取り入れた松本洋子先生オリジナルの世界観といえるでしょう.

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機関としての番人,死神,悪魔,魔物 by HIT (2000.4.18)

 以上,3つの世界をめぐる魂の物語を円滑に進めるために,この物語の3人のキャラクター『番人』,『死神』,『悪魔』がいます.あと,表立って登場した場面はないのですが,『魔物』というキャラクターもいます.

4人のテリトリーと役割,そして能力は,以下の通りです.

キャラクターテリトリ役割能力
番人 闇の世界の『部屋』に常駐.たまに現実世界に出向く. 迷った魂の交通整理 魂に現実世界を見せること,魂の姿のまま現実世界に行かせること,現在の記憶を残したまま魂を過去に送り込むこと.
死神 現実世界と無の世界を往復.たまに闇の世界にも. 死んだ魂が闇の世界にこぼれないよう無の世界に運ぶ. 死期の近い生き物を感じる.ごくまれに2つの生き物の死期を入れ換える.
悪魔 現実世界に常駐. 生き物と契約し,契約を果たすと,契約者の魂を食べてしまう. 生き物に対しては,ありとあらゆる超能力が使える,最強のキャラ.ただし,時間を司どる能力はない.
魔物 闇の世界に常駐.番人の『部屋』の外にいる. 迷った魂を食べてしまう. 特になし.

 一番広い行動範囲を持っているのは『死神』です.3つの世界を自由に行き来できるのは,死神だけです.次に番人.悪魔と魔物は一つの世界にしかいることができません.魔物は,何の能力もありません.

 魂は,無から現実世界に生まれ,死ぬと「無の世界に行き,また無に帰る」か,「魔物に食べられる」か,「悪魔に食べられる」かのどれかの結末に至ります.魂の行く末から見れば,魔物と悪魔は,『魂の処理機関』,死神は『魂の運搬機関』,番人は『魂の信号機関』といえるでしょう.

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世界進化論 by HIT (2000.4.17)

 まず,この世界には,『神がいない』というのが大きなポイントです.この物語は,まさしく「神のいない現代の社会を反映した物語」です.

 つまり,3つの世界と4つの機関は,誰かに作られたものではなく,自然発生的にできたものです.その存在は絶えず変化し,進化している,といえます.

 この3つの世界の性質と,4人のキャラクターの役割を分析すると,この3つの世界が出来た理由と,その『進化』の過程がおおよそ明らかになってきます.大胆に推理してみると,以下のようになります.

段階世界の構成内容
第一段階世界:現実世界,無の世界
機関:なし
 まず,最初,世界は『現実世界』と『無の世界』の二つだけがあったと思われます.つまり,現実世界で死んだ魂は,無の世界に行き,消えていくだけです.そこには,特別な機関や仕組みは必要ありません.
第二段階世界:現実世界,闇の世界,無の世界
機関:なし
 ところが,魂の一部に,無の世界に行かずに,その中間にとどまるものが出てきました.このさまよえる魂は,往生際の悪さ等で,自分の死が信じられない人などです.こうして中間に『闇の世界』が誕生しました.
第三段階世界:現実世界,闇の世界,無の世界
機関:魔物
 この新しく誕生した闇の世界は,段々と膨れ上がって行き,世界のバランスを崩し初めました.それはそうです.闇の世界から魂はどこにも行かないので,どんどん増えるばかりだからです.しかし,魂の宿る物がない闇の世界に長くいる魂は,だんだんとその性質を変え,凶悪化してきました.魔物の誕生です.魔物は,超能力等は持っていませんが,他の魂を食べてしまいます.
 しかし,魔物が誕生したことで,闇の世界の膨張は,ある程度収まりました.こうして世界のバランスは辛うじて保たれました.
第四段階世界:現実世界,闇の世界,無の世界
機関:死神,魔物
 魔物が誕生して,闇の世界の膨張に陰りは出ましたが,相変わらず,闇の世界の膨張は続きます.そこで,第2の機関,『死神』が誕生しました.現実世界で死んだ魂が,中間の闇の世界で捕まって,魔物に食われてしまわないように,大事に運ぶ役割を担うものです.
 死神もやはり,魔物と同じく,魂が変化したものだと思われます.(何しろ,この世界には,神がおらず,魂しかいないのですから.)死んだ魂の中から選ばれた魂が,死神の役割を果たすようになるのでしょう.死神の寿命は,人間のそれに比べれば,恐ろしく長いと思われますが,それでも,無限という訳にはいかないでしょう.寿命が尽きかけてきた時には,後継の魂を選び,後を託して,自ら『無の世界』に身を投じるのです.
第五段階世界:現実世界,闇の世界,無の世界
機関:悪魔,死神,魔物
 こうして,一応のバランスを取り戻したこの世界ですが,新たな波紋が起こりました.悪魔が誕生したのです.悪魔は,闇の世界ではなく,現実世界にいることから,「生きた魂」から進化したものだと思われます.生きた魂の中から進化し,現実世界にそのままとどまる能力を身につけたものが悪魔となります.そして悪魔は,その力を維持するために,他の生きている魂を食べることが必要なのです.そこで,その能力を使って,生きた人間の望みを叶えてやる代わりに,その魂を食べてしまうという『契約』をし,それを実行するのです.
 ちなみに,悪魔も長生きですが,死神と同じく無限という訳にはいかず,寿命が尽きかけた時には,死神と同じように,後継に引き継ぐのでしょう.ただし,その魂は,『無の世界』に行って成仏できるとはとうてい思えないので,多分後継の悪魔に食べられてしまうと考えるのが合理的です.自分が選んだ後継者に食べられてしまうとは,恐ろしいことです.人間,間違っても,悪魔にだけはなるものではありません.
第六段階世界:現実世界,闇の世界,無の世界
機関:番人,悪魔,死神,魔物
 悪魔が誕生したことによって,世界のバランスはまた崩れました.悪魔と契約した人間が増えることにより,世界がすさみ,まっすぐ成仏せず,闇の世界に迷い込む人が増えはじめたのです.それほどの能力を持っていない死神では,この迷う魂をどうすることもできず,闇の世界の混乱は増すばかりとなりました.
 そこで誕生したのが番人です.闇の世界の入り口に部屋を新設し,そこで,交通整理をし,迷える魂を迷わず成仏させるか,現実世界に戻ってやり直すかを決め,それを実行するのが仕事です.
 現実世界と闇の世界を行き来できるというその性質から,番人は,死神が進化したものと見て間違いありません.死神の中から能力の大きなものが選ばれ,その任につくのです.
 番人の誕生で,この世界は,秩序を取り戻しました.番人の役割は,「魂のフィードバック回路」です.フィードバックこそが,自然界でもっとも一般的に行われている安定装置だからです.番人の「魂を現実世界に戻す能力」,「時間を元に戻す能力」こそが,この世界安定に大きく寄与しているのです.

 こうして完成した世界が,『闇は集う』の世界です.

 以上でおわかりのように,この世界には,世界の設計者たる神は存在しません.その時々の必要性に応じて,世界と魂たちが生み出してきたものが,この世界です.いわば,神は,これから生み出されようとしている「若い世界」なのです.神に一番近い立場にいるのは,紛れもなく『番人』ですが,悪魔がこのまま引き下がるとも思えません.時間を司どる能力を持つ悪魔が生まれてくるなど,まだ,まだ一波乱,二波乱もありそうな世界です.

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悪魔はなぜ契約を守るのか? by HIT (2000.4.19)

 『闇は集う』の中の主要な機関(キャラクター)に,悪魔がありますが,このキャラには,大きな謎があります.「大きな力を持ちながら,なぜ契約といった方法によってしか,魂を狩ることをしないのだろう.」という点です.今回は,この点について,考察してみましょう.

 すでに述べたように,この世界には,神がいません.したがって,悪魔が契約によらずに人間の魂を狩ったとしても,神にとがめられることはありません.しかし,何をしてもいいはずの悪魔は,契約によってしか魂を狩ることをしません.全く不思議です.その理由をいくつか考えてみました.

仮説説明
魂の味説 実は人間の魂にも味があり,悪魔は好き嫌いが激しいのです.悪魔と契約したような冷徹な人間の魂は,極上の味がするが,無理やり狩った一般人の魂は,まずくて食べられたものではない.したがって,悪魔は,契約をすることによって,魂が極上の味に仕上がるのを待ち,そして食べるのです.
番人天敵説 悪魔の天敵は,どうみても番人です.直接対決すれば,悪魔が強いかも知れませんが,番人には「時間を戻す」という切り札があるからです.したがって,天敵の番人に気がつかれないように,こっそりと,契約による秘密裏の処理を行うのです.
職業倫理説 悪魔は生きている人間の魂が進化したものです.悪魔のような人間はいろいろなタイプがいますが,実際に悪魔に進化できるのは,一時の激情で他人を殺すような人ではなく,冷徹に,規則正しく他人を不幸に陥れる人だけです.そのような人から進化した悪魔ですから,自らの「仕事」にルールを設け,それを守るという職業倫理は,人一倍発達しており,契約によらない魂の狩りは,行わない,と自らを律しているのです.
仲間協定説 悪魔は実は複数おり,それぞれに活躍しています.そのため,一時は魂の取り合いとなり,壮絶な同士討ちと資源となる魂の枯渇の危機に見舞われました.このままでは悪魔は滅びると,仲間内で協定が結ばれ,魂の漁法(?)は契約による場合に限られ,どの悪魔もその協定を守っているのです.
 ちなみに,最近の人口急増によって,魂の枯渇の心配が遠のいたので,悪魔協同組合では,100年に1回開かれる次回の総会(2001年)で,漁法規制の緩和を実施する見込みです.新たに許可される漁法は,定置網(特定の場所にわなを仕掛け,わなにかかった魂をまとめていただく.)となりそうですが,良い場所の許可を得ようと,組合の幹部に賄賂(もちろん魂です.)を贈る悪魔がすでに出ており,悪魔検察特捜部が捜査に乗り出している模様です.
後継者探索説 実は,悪魔は,例え番人と闘っても絶対に死ぬことのない,不死身の存在です.そのため,長い間,人間の魂を屠りながら生きているのですが,常にいつか死にたい,と望んでいるのです.
 そして,たった一つ,死ぬことができる方法というのが,「悪魔を上回る知恵をもって,契約の裏をかいた人間を見つけ,その人間を後継者とし,その後継者に食べられてしまう.」ことです.こうして,悪魔は代がうつるごとにパワーアップしていきます.
 つまり,人間と契約し,それを履行するというのは,悪魔が自らの後継者を探す最上の手段なのです.悪魔にとっては,「自分を上回る人間と契約をし,その人間が自分に勝った時」が長い長いその人生の終わりであると同時に,終わりなき義務からの解放の瞬間です.その魂は後継の悪魔に食べられてしまうのですが,その表情には,安どの色と幸福感があふれているそうです.

 とまあ,いくつかの説を述べてみました.常識的には,番人天敵説がもっともありそうなのですが,魂の味説,後継者探索説も,なかなかだと思います.

 さて,あなたは,どの説が正しいと思いますか?

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