HITの「単位の話」


 勝手に連載を開始しました、『HITの物理小ネタシリーズ』です。物理好きの学生を少しでも増やしたい、というまじめな目的も少しありますが、本当は、単に、自分の知識をひけらかしたい、という自己顕示欲が強かったりします。

 さて、第1段は、「単位の話」です。

なお、作品中では、「理科年表」(国立天文台編 /丸善発行)の各年度版を参考にしております。


長さ

 物理量の基本は、「長さ」と「質量」と「時間」です。その中でも、一番身近な長さにスポットをあててみましょう。

 長さの単位は、「メートル」ですね。メートルがどうやって決められたかというと、知っている人も多いでしょうが、「地球の子午線の赤道から北極までの1000万分の1」と決めたのが最初です。フランス革命の威信をかけた大事業によって、最初の1メートルが規定されました。

 この元になったものを「メートル原器」と呼ばれ、そのレプリカを各国に配って、全世界が同じ規格で長さを語れるようになったのです。

 しかし、その後、精密な測定ができるようになると、原器が元の定義と異なっているのが、分かり、「原器が正しい」と定義が代わりました。(1889年)

 その後、原器という原始的な方法での扱いは限界があると、もっと普遍的なものへの置き換えが検討され、86Kr原子のだいだい色スペクトルの真空中における波長の1650763.73倍を1メートルとすることに決まりました。(1960年)私が学校で習った頃は、この定義でした。

 最近、また定義が代わり、今では「光が真空中で(1/299792458)秒間に進む距離」となっています。(1983年)

 ご承知のように、アインシュタインの相対性原理によれば、真空中の光速度はどんな座標系でも一定ですから、長さは究極の定義を得た事になります。なにしろ、「アインシュタインの相対性原理が間違っていない限り」長さの定義が違うことはないのですから。(注:本当は、1秒という他の単位を定義の中に使っているので、1秒がづれると、長さもあやしいですが...)

 しかし、光って、1メートル進むのに、たったの3億分の1秒しかかからないんですね。その光をもってしても、宇宙の果てには、100億年以上かかるとは、宇宙って、なんて広大なんでしょう。

by HIT(1998.11.25)


質量(重さ)

第2話は、「質量(重さ)」です。

 物理量の基本量の中で、長さと時間は、なんとなく理解できますが、重さって、ちょっと分かりにくくありませんか。

 重さと質量とは、厳密には違います。無重力状態になると「重さ」はゼロになりますが、質量は、地上と変わりません。物理の基本単位となるのはどんな状態でも変化がない(相対性原理が効くような状況は除く。)「質量」の方です。でも、地上では、質量=重さと思ってもらっても結構です。

 では、質量とは、何でしょうか。これは「物体に加えた力とその結果得られた加速度の比」で表されます。つまり「同じ力を加えても質量が大きいものは、あまり加速されない」という物理現象(ニュートンの運動方程式)から出てきた、物体固有の数値でして、決して変化しません。この質量は、日常的に用いる重さと比例していますので、ほぼ同じ単位系を使い表されます。

 質量や重さを表す単位は、グラムやキログラムを用います。

 最初のメートル法施行時の1キログラムの定義は、以下のようなものでした。

「1気圧下で最大密度(約セッ氏4度)の水1,000立方センチメートル(=1リットル)の質量」

 しかし、定義を見ても分かるように、「1気圧」(どうやって計るの?)「温度」「水」、「長さ」といった、他に定義の必要なものが山ほどあり、とてもじゃないですが、そのまま定義には使えません。そこで「メートル原器」と同じように「キログラム原器」を作って、それと同じ質量を1キログラムとして通用させることにしました。

 ちなみに、メートルの定義がころころ変わったのと違い、キログラムの定義は、今でもこの「キログラム原器」方式が守られています。

 ところで、最初のキログラムの定義ですが、覚えておくと、いろいろなところで暗算に使えて便利です。つまり「水1リットルは1キログラム」と覚えておくのです。そうすると、液体の体積を重さに変換するのがスムーズに行きます。水と違って密度が1じゃない物質の場合には、その物質の比重(密度比)を掛ければ済むことですし。

 さて、質量の単位キログラムが分かったところで、重さとは何なのでしょう。重さは、基本量ではなく、「ある質量の物体が地上ゼロメートルの地点で(重力によって)地球に及ぼす力」を指しています。すなわち、「力の大きさ」です。

 力は、ニュートンの原理によれば「質量と加速度の積」ですから、重さ(力)の単位は、質量に地球の重力加速度(9.8メートル/秒/秒)かけたもので表し、「キログラム重(じゅう)」(表記は、kg重またはkgf)という単位が用いられています。もちろん、1キログラムの質量の物質の地球上での重さは、1キログラム重です。

 重さと質量の違いを感覚的に表すのは難しいですが、重力が6分の1の月面を利用した例が良く用いられます。

「月面で野球をすると、フライは6倍の高さに上がり、なかなか落ちてこないが、ライナーのスピードは地球上と変わらない。」

by HIT(1998.11.30)


時間と時刻

 「単位の話」の第3話は「時間と時刻」です。まずは、「時間」です。

 時間を図る物理的な基本単位は「秒」です。

 秒の定義は、誰でも知っているように、

「1日を24等分したものが1時間。1時間を60等分したものが1分。1分を60等分したものが秒」

 ですね。でも、これも昔の定義であって、現在は違います。

 なぜ、この定義が使えないか、考えてみましょう。

 1日を定義するとすると「太陽が真上(子午線)を通過してから次に通過するまでの時間」となりますが、地球が太陽のまわりを回るスピードは、だ円軌道なので一定ではありません。では、1年間の平均を取ればいい、といってみても、年によって、微妙に違ってきます。そこで、まず、以下の定義に代えられました。

「1900年1月0日12時における回帰年の(1/31566925.9747)を1秒とする」(1956年)
(0日というのはミスタイプではありません。特殊な専門的表現です。)

 回帰年は、春分点から春分点まで、地球が太陽の回りを一周するの時間、つまり1年のことです。この回帰年は、500年で1秒の割合で毎年短くなっていますから、1900年と年を指定したのです。(なぜ1年が毎年短くなっているかというと、地球が太陽に向かって落下しているから。)

 しかし、これでは、検算のしようがないので、以下の定義に代わりました。

「セシウム133の特定放射の9192631770周期分の時間」(1967年)

 当時、すでにこのセシウムの放射を利用した「セシウム時計(原子時計)」というものがあって、これが世界で一番正確なので採用されました。現在もこの定義が使われており、基準を刻む原子時計が世界各国にあります。

 次に、「時刻」です。時間と時刻の違いは、皆さんおわかりのように、
「時刻間の差が時間」です。

 時刻は、上のように、時間の単位(秒)さえ決まれば、「あとは、それを60倍したものが分、その60倍が時、その24倍が日なので簡単だ」と思われるかも知れませんが、そうは世の中簡単ではありません。

 上にも述べたように、1年の長さは、500年に1秒の割合で短くなっているように、1日の長さ(すなわち地球の自転速度)も刻々と変わっています。

 そのため、「暦と季節がずれるのを防ぐため」に4年に1回実施される「うるう年」と同じようなしくみが、1日のずれをなくすためにも必要とな
ってきて、「うるう秒」という制度が1972年から実施されています。

 「うるう秒」というのはどういう制度かというと、天体観測による1日の長さと、原子時計による1日の長さの差の累計が、0.9秒を越えそうになると、うるう年のように、1日の中に1秒を挿入して時計を遅らせたり、1秒を飛ばして時計を早めたりして、調整する制度です。

 1972年1月1日以降、1996年1月1日までの間に、20回のうるう秒が実施さ
れました。ちなみに、20回とも時計を遅らせるもので、「だんだん1日が
長くなってきている」ことを示しています。これは、地球の自転が遅くな
っているためです。(つまり遠い将来には、地球の自転は止まる...)

 このペースで、地球の自転が遅くなり、「うるう秒」を実施しなかった
と仮定すると、50年で、原子時計と天文時刻は1分の差が出ます。1500年放置すると、30分の差になり、世界中で、「太陽が真南に来る時刻が11時半」に変わってしまいます。うるう秒の必要性がおわかりでしょうか。

 ところで、パソコンの表計算ソフトのLotus1-2-3やMS-Excelには、日付
時刻関数があって、2つの時刻間の差(すなわち時間)が簡単に計算できま
すが、この「うるう秒」には対応していません。「1975年7月25日13時00分から1995年11月13日23時56分の間の秒数」といって、表計算ソフトがはじき出す答えは、自信を持っていいますが「間違っています。」

 知らない人をからかうには、もってこいの題材ですが、これによって、
人間関係が崩れても、私は一切責任を持ちませんから、自己責任でやって
下さい(^^)

(参考:「理科年表1997年版」国立天文台編 丸善)

By HIT(1998.12.05)


温度

水の沸点は100度?

 「単位の話」の第4話は「温度」です。

 温度の単位は、皆さん良く知っているように、「度」ですね。同じ「度」であっても、普通に使う「セッ氏温度(セルシウス温度)[℃]」と「絶対温度(熱力学的温度,ケルビン温度)[K:ケルビン]」があるのは、御存じですよね。

 このうち、先に定義されたのは、セッ氏の方です。この定義は以下のようなものでした。

セルシウス温度の定義:
「1気圧での水の凝固点(水が氷になる温度)を0度とし、水の沸点(水が水蒸気になる温度)を100度とし、その間を100等分したものを1度として、上下に拡張したもの」

 水という地球上に普遍的にあるものを用いたこの温度定義は、世界中に受け入れられて、それまでの華氏温度(°F)等を一掃しました。

 その後、温度の熱力学的意義が明らかになり、温度とは「物質の振動エネルギー(熱力学的エネルギー)量」だと分かりました。そして、気体の熱力学的エネルギーの観測から得られた式から「熱力学的エネルギーがゼロになる温度」が存在することも明らかになりました。この温度は、セッ氏マイナス273.15度と計算され、『この温度以下には、どんな物質もならない』ことになります。

 この最低温度近辺では、『超伝導』(電気抵抗がほとんどゼロになる)とか、『超流動』(液体が敷居を越えて勝手にしみ出す)など、普通の温度では考えられないような物理現象がいろいろ起こり、『低温物理』として研究の対象となっています。

 低温物理というと、すぐに超伝導という位有名で、東京-大阪間を1時間で結ぶリニアモーターカー実験の大磁力発生装置も超伝導技術が使われています。

 さて、話を元に戻しますが、この最低温度をゼロとした温度体系が考え出され、絶対温度とか、熱力学的温度とか、ケルビン温度と呼ばれています。

絶対温度の定義:
「セッ氏温度+273.15度」(注1)

 熱力学的には、絶対温度の方が都合がよく(何しろ、熱力学的エネルギーが2倍なら、温度も2倍となるので便利)、物理の分野で温度といえば、絶対温度だと思って間違いありません。

 今では、絶対温度の方を先に定義し、セッ氏は、「絶対温度−273.15度」で定義されるように立場が逆転しています。

 しかし、です。上の定義には、重大な欠点がありました。それは、「温度目盛りを等分にしたり倍にする」ことが不可能だという事です。長さや重さは同じものを2つ用意すれば、簡単に2倍になり、等分にするのも簡単ですが、温度はそうはいきません。10度の水を2つまぜても、20度にはなりません!!

 また、10度の水と20度の水を同量まぜれば理論上は15度の水になるはずですが、混ぜる間に熱が逃げて、正確に15度の水を作ることは絶対に不可能です。

 よく、水銀やアルコールの熱膨張を利用した温度計がありますが、あれとて、正確に比例して膨張する訳ではありませんので、高い精度では使えないのです。

 つまり、温度目盛りの設定は簡単ではなく、1948年以来、いくつかの温度定点(実験で再現しやすい温度)を定め、その定点間の補間式も合わせて定義することで温度を定義してきました。1968年と1990年に大改正がありました。改正の度に古い温度との差が発生しており、古い実験データを読む時には、「いつの温度定義でやった実験か」を確かめないととんでもない事になります。何しろ、高温域では、平気で2-3度の差が発生しているのですから。

 で、現在の1990年に定められた温度定義では、17個の温度定点が与えられています。注目したいのは、この定点の中に、セッ氏の定義の元となった
「1気圧下の水の凝固点(=0℃)」、「1気圧下の沸点(=100℃)」のどちらもないことです。

 水の凝固点の方は、「水の三重点(注2)」(=273.16K=0.01℃)という定点が
あって、限りなく0℃に近い数字が出るようになっています。しかし、沸点の方は、とうとう定点からはずされてしまったため、旧温度とずれが出てしまいました。

 ちなみに、1990年温度での「1気圧下の水の沸点は、約99.974℃」です。

 現在の温度目盛りでは、水の沸点は100℃ではないのです!!!

 知らない人には、自慢できそうな大事実ですが、知ったかぶりをして突
っ込まれて赤ハジをかいても私は一切責任を持ちません。また、デートで
こんな話題を話すと変人扱いされますから、使用する場所と相手は良く選
んで下さい。成功を祈ります。(なんのこっちゃ)

(注1)本当は違います。「水の三重点の熱力学的温度の273.16分の1」が正しい定義ですが、説明を簡単にするため、本文中の表現をとりました。水の三重点(注2参照)は、セッ氏0.01度であり、結果的に、本文中の表現と同じになります。

(注2)三重点とは、物質の固体、液体、気体が共存する気圧、温度のこと。
気圧という微妙な物理量を固定する必要がないので、実験室で再現しやすい。

(参考:「理科年表1997年版」国立天文台編 丸善)

[ ほほえんで物理学 | よみの国研究所 ]