妻木晩田遺跡群の保存問題 By HIT(1998.1.15)



[1]基礎編

 四隅突出型古墳という特殊な古墳が大量に出た洞ノ原遺跡を含め、吉野ケ里をしのぐ我が国最大の「弥生時代住居遺跡群」を擁する妻木晩田(むきばんだやま)遺跡群(大山町と淀江町にまたがる)の保存問題が最近クローズアップされています。

 この場所は、バブルの亡霊ともいうべき、リゾート法の基づく「大山リゾート開発」計画の一環として、京阪電鉄(そう、あの大手電鉄会社の京阪です)がゴルフ場として、開発するために、購入したもので、造成前の遺跡調査でこうした国内第一級の大規模遺跡が発見されました。

 しかし、昨年末に、県教育委員会、大山町教育委員会、淀江町教育委員会と京阪電鉄が合意した計画によると、洞ノ原遺跡の四隅突出型古墳を、淀江町内に移築して保存するだけで、あとは「記録保存」することになりました。

 記録保存というと聞こえがいいですが、要は「写真に取ったりするだけで、本物は壊しちゃうよ」という事です。何とももったいない話です。その記録調査にしたところで、大急ぎで今年の3月末までで終わらせ、後は、ゴルフ場の造成工事にかかるようです。あれほど大規模の遺跡群をたった3か月の調査で終了できる訳がありません。全国には、2年以上かけて調査している遺跡だって山ほどあるのですから。結局「良く調査もしないで破壊」することになりそうです。

 しかし、その合意後に、「やよい時代最大級の住居跡地」だという事が分かり、(しかも、今回の調査は、一部しかしていないので、全部を調査するとどれだけの規模になるか、想像がつかない)がぜん、遺跡保存運動が盛り上がり出しました。3月末までのタイムリミットが迫っていますが、折角の地域の財産です。保存という方向に進んでもらいたいものです。


[2]原因編

 思えば、今回の事件(?)は、不幸な偶然が重なって起こった事件です。

(1)開発業者が立派な企業だったこと。
 逆説的ですが、これが一番不幸な事態をもたらしました。大山リゾートでは、他に、2つの都会資本がゴルフ場を中心としたリゾート開発を目指していました(米子市と大山町にまたがる区域、淀江町の一部)が、バブル崩壊による資金繰り悪化で、相次いで撤退しています。しかし、ここの計画は、京阪電鉄というしっかりとした企業であったため、資金繰りに困る事もなく、現在まで至ってしまったのです。

(2)遺跡が少しずつ発掘されたこと。
 今でこそ、妻木晩田遺跡群として、一つの遺跡として扱われる事が多くなりましたが、当初は、洞ノ原をはじめとする単独の遺跡としてそれぞれ別別に調査され発表されていました。これが、最初から一連の遺跡として発掘し、発表されていたならば、全国紙のトップをカラーで飾る、そう上淀廃寺以上のセンセーションルな遺跡となって、大フィーバーが起こったはずです。ちょっとした手順の違いで、今のような地味な形になってしまったのは、本当に不幸な事です。

 ちなみに、この遺跡群を一連のものとしてとらえて、その可能性に着目し、「妻木晩田遺跡群」と名付けたのは、遺跡の宝庫、島根県から転勤してきた山陰中央新報の記者でした。

(3)予備調査が不十分だったこと。
 京阪電鉄が土地を購入する前の予備調査で、今回のような遺跡が発掘されていたら、その時点で京阪電鉄は、開発計画を断念していたでしょう。しかし、予備調査は不十分で、「開発OKとの判断を下され、事業実施に一歩踏み込んでしまいました。元々地元では「遺跡の宝庫」と呼ばれていた山の開発ですから、もっとしっかりとした遺跡調査が必要だったと思います。地元も開発優先で、調査がおろそかになってしまったのでしょうか。

(4)行政が及び腰だったこと。
 これほどの遺跡が出ながら、県や両町は、遺跡保存に消極的で、すべて事業者まかせです。というのは、リゾートの撤退は、各地で相次いでいますが、その投入資金の回収について、行政と事業者でもめている例が多いからです。鳥取県でも、国の天然記念物オオワシの保護のため、開発を断念した業者が、県を相手にした損害賠償請求訴訟を検討中と聞きます。

 行政としても、「業者の都合で計画がストップした」というならば、責任を回避できますが、そうでなければ、行政が責任を取らされます。そうした事態を避けるには、「一度計画がスタートしたものは、どんなに情勢の変化があっても推し進める」ということになります。諫早湾や、中海干拓などでも良く知られるこの構造は、全国どこでも共通です。

 県としても、他の2つのゴルフ場は、業者自ら転んでくれましたから、何もしなくても良かったのですが、京阪電鉄はさすがに転びません。球を投げ返されることが大嫌いな行政としては、「さわりたくない」という心境なのでしょう。

 しかし、県民の貴重な財産であるこうした遺跡を、県や町が守れないというのは、本当にかなしい事ですね。


[3]現状分析編

 さて、妻木晩田遺跡群をめぐる現状はどうなっているのでしょうか。

(1)ゴルフ場開発を取り巻く状況  バブル時に各地で多数計画されたゴルフ場計画も、多くは断念されています。また、バブル以前からある名門ゴルフクラブでさえ、預かり金が返還できずに倒産する時代です。今は「ゴルフ場開発冬の時代」である事は間違いありません。

 一般に、ゴルフ場の開発業者は、会員券を発売し、それによって資金を回収します。しかし、昨今のゴルフ場を取り巻く状況から、昔のような高値の販売は不可能で、投下資本を回収するのは、至難の技です。

 現在まで、京阪電鉄は、ここに50億円をつぎ込んでいます。先日、「守る会」が大阪の京阪電鉄本社に押しかけた時の、担当重役の回答には、「このままゴルフ場開発をしても、投下資本を全額回収するのは、無理だろう。」と言っています。しかし、現状のまま放置するよりは、開発して会員券を売って、少しでも資金回収をした方が得なのはあきらかなので、仕方なく「ゴルフ場開発を進める」という理由のようです。

(2)県、町
 すでに土地を業者に売ってしまった以上、開発中止を申出るには、土地の買い戻しが必要になります。そんな巨額の資金は、県や町にはありません。県や町がゴルフ場開発を進める最大の理由は、この「資金問題」にあります。

(3)住民
 地元でも盛り上がりに欠けた遺跡保存の運動ですが、さすがにすごい遺跡であるというのが、知れ渡ってきたようで、少しずつ盛り上がってきているようです。全国から考古学者が手弁当で講演会を開いたり、現地説明会にも沢山の人が押し寄せてきているようです。行政を動かすのは、何よりも住民の声ですから、こうした動きがもっともっと盛んになっていくことが重要でしょう。


[4]解決条件編

 以上のような現状を踏まえて、この遺跡群を保存するには、どのような方法が良いでしょうか。まずは、条件を考えてみましょう。

(1)業者への補償
 土地まで購入して事業継続を進めてきた業者に、何の補償もせずに撤退をしてくれ、という訳にはいけません。

 かといって、業者が投下した資本すべてを補償する必要はないでしょう。業者もゴルフ場を作っても赤字は確実と言っているのですから、ゴルフ会員券を売って得られる資金程度の補償で十分でしょう。京阪電鉄は「他の経費はいいから、土地さえ買い戻してもらったら撤退する」と言っていましたが、それはそうでしょう。しかし、現状では、土地の買い戻しですら、過剰補償と言えるかも知れません。

(2)業者の損金対策
 しかし、業者に適正な補償価格(土地購入価格以下)での買い戻し等を提案しても、多分蹴られるでしょう。なぜなら、購入価格以下での売却は、損金扱いとなり、業者の収益を圧迫するからです。京阪電鉄の経常利益は、96年度で83億円ほどです。例えば、大山リーゾトに投じた費用を全額50億円をドブに捨てたとすると、年間利益の60%以上の損金を経常するため、配当も下がり、株価が急落します。ここは、平穏な対処方法を考えないといけません。

 そのためには、「複数年度に渡って徐々に損を確定する」方法です。いくつかの手法が考えられますが、一番簡単なのは、「県や町が、年度に渡って徐々に土地を買いましていく」というものです。この手法は、県や町にとっても、一時に大きな資金が必要ないという点で、良い手法です。

(3)遺跡整備
 例え、業者がゴルフ場を断念したとしても、今のままでは、遺跡はそのまま朽ち果てるか、埋め戻されてしまい、人目に触れなくなります。埋め戻しにより、保存されているから良い、とも言えるのですが、折角の全国級の遺跡群です。現地は、日本海、弓が浜、島根半島等の眺望もすばらしい地区です。遺跡を中心とした公園として整備するのが、一番良いでしょう。


[5]解決提案編

 さて、以上のような条件をもとに、遺跡保存の具体的な提案をしてみましょう。

「官民共同の遺跡公園を作る」のです。

 どのような分担で、官民が手分けをして整備するのかは、良く話しあう必要がありますが、適度な行政負担で、業者のリスクを抑えてやれば、十分乗ってくる話だと思います。

 とはいえ、行政が出す資金がないと話になりません。本当は、年間数億円を 10-20年程度継続して支出するなんて、県の予算規模を考えれば、簡単な話なのですが、それはそれとして、いい財源が一つあります。

「山陰・夢みなと博覧会の余剰金」をこれに当てるのです。

 現時点で、夢みなと博の余剰金がいくらあるのか分かりませんが、予定超過分の50万人分の入場料としても、10億円程度はありそうです。事業の手付けとしては十分な額です。

 また、県知事は「余剰金は、国際交流に使う。」といっていますが、なに、遺跡公園を「妻木歴史交流公園」とでもして、それらしい施設を併設すれば、名目は立ちます。

 どんなものでしょうか。