境線問題の誤解を解く(7回シリーズ) 1997.11.11


1.地下化経費はJRが負担すべきか
2.境線の利用者は多い
3.境線は大赤字ではない
4.境線はただでは廃止できない
5.空港アクセスには鉄道が最適
6.境線維持は自動車交通のため
7.総合交通システムの構築を


1.地下化経費はJRが負担すべきか

 11月9日付けの鳥取発特報に、再度境線の地中化問題が登場した。境線全体の数字を引用できなかった理由などが詳しく書いてあり、まだまだ境線についての誤解は多いものの、大いに評価できる記事です。惜しむらくは、もっと早い時点で、こうした記事を載せていれば、JRによる不買運動も、紙面を賑わす殺伐とした投稿合戦もなかったと思われることです。

 しかし、まだまだ誤解に誤解を重ねた内容ですので、正しい知識を読者に知らせて、読者の誤解を解く必要があります。そこで、これから、7回にわたって、境線問題の誤解を解くため、事実の例示と主張を展開したいと思います。

 まず、最初は「地下化の経費をJRが負担すべきかどうか。」という問題です。記者の主張では、地下化の40億円はJRが負担すべきであり、それでは採算が取れないので、境線を廃止してはどうか、というものです。これには、すでに多くの人が誤りを指摘しているのに、記者が未だに主張を変えないのが理解できないくらい大変おかしな主張です。

 この論でいくと、商店街や工場地帯に公共買収が当たった場合には、商店や工場は自ら移転費用を負担しなければならず、大多数の事業所は廃止に追い込まれます。こんな事が許されてよいのでしょうか。記者の自宅が公共買収にかかった際にも、記者は無料で家を立て替えるのでしょうか。おかしいとは思いませんか。

 これを境線の地下化工事に置き換えれば、40億円は滑走路延長の事業主体が当然に負担すべきものであり、採算性は、滑走路延長事業側で考えるべきものであることがおわかりでしょう。40億円の投資は、JRのためではなく、空港のためなのですから当然です。

 県が海側ではなく、陸側への滑走路延長を検討しているのも、陸側の方が、 JR地中化の40億円を含めても、得になるという計算から来ています。滑走路延長が必要な理由は、11/1日付けのやまびこ欄でも述べましたが、東京圏の空港容量の不足です。あの投書では、年3%アップとして計算しましたが、実際の昨年の航空輸送実績は7%も増えています。一刻の猶予もなりません。滑走路延長がされずに、東京便が廃止や減便になった場合の地域が受ける損害を考えれば、 40億円程度の経費は十分ペイするものです。

 日本全体で見ても、東京圏第三空港を造る経費(1兆〜3兆円)で、米子空港クラスの空港を100か所も滑走路延長出来てしまいます。地方空港の滑走路延長の方がはるかに得なのです。こうした国全体から見ても、採算が成り立ち、地域的に見ても、十分採算がとれるのに、一記者の理屈にならない理屈で、重要な地域の施設を廃止に追い込むのは、愚の骨頂というべきでしょう。


2.境線の利用者は多い

 特報記事の誤解を解くシリーズの第二弾です。今回は、境線の利用者数についてです。

 10月7日の記事では、境港駅の乗車人数のみを取り上げ、利用が減っていると断じていました。境線の廃止を論じるのならば、境線全体の利用者数と傾向を論じるべきですし、近隣に馬場崎町駅が開業したために利用者の減った境港駅を取り上げるのは卑怯です。では、実際のところ、境線の利用者は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。

 鉄道ジャーナル97年1月号に境線の特集がありましたので、引用させていただきますと、境線全体の利用者数は、1987年度が1日5,400人。1995年が6,300 人(年間230万人)と1割以上増えています。JR化後に1割も利用が増えた線というのは、大都市圏を含めても、それほど多くないはずです。

 実は、最高を記録した1990年の6,700人からは若干減っていますが、これは半数強を占める高校生の減少が理由です。高校生の減少は、出生動向に基づく全国的な傾向ですから、致し方ありません。しかし、逆に通勤通学以外のデイタイム利用者は増えていて、ローカル線としては、かなり特異な存在です。

 境線の利用者が、民営化後に増加した原因は、運行頻度の増加と、駅の新設により、利便性が増したことがあります。90年以降、利用者が増えていないのは、駅の増設も運転本数も増加していないから、ともいえます。いくら利便性を増しても、周辺に人が住んでいなければ、どうしようもありませんが、米子・境港地区は、山陰一の人口密度を誇る人口密集地帯です。さらに利便性を増せば、まだまだ利用が増える可能性を秘めた路線なのです。

 他のローカル線の輸送実績と比べてみましょう。山陰にあるローカル私鉄である一畑電鉄と若桜鉄道の利用者数は、94年実績で、それぞれ年間182万人と 55万人です。(『数字で見る鉄道'96』(財)運輸経済研究センター)それぞれ境線の79%、24%に過ぎません。境線の利用者数はローカル線としては、十分に多いことが分かります。

 また、境線の利用状況を語る上で欠かせないのは、平行するバス路線との比較です。残念ながら、当該路線のバスの輸送実績を把握していませんが、鳥取県全体の動向を見ると、87年2678万人から96年1908万人と、30%も減っています(鳥取県統計年鑑より)。実際、便数も減っていますし、乗車してみた感じでも、平行バス路線の利用者はかなり減っていると思われます。

 こうした状況を考えると、利用の減っているバスと、ここ10年で利用者を1 割以上伸ばし、近年もその数を維持しているJR境線とを比べれば、JR境線の利用者と傾向を「少ない」とか「減少している」とはとうてい言えないはずです。

 結論としては、「境線の利用は十分多い。」という事です。


3.境線は大赤字ではない

 境線問題の誤解を解くための第三弾です。今回は、境線の経営状況についてです。

 特報記事では、国鉄時代の営業係数698を引用して、利用が1割増えた程度ではそれほど変わらないだろう、と書いていますが、これはとんでもない間違いです。第一、国鉄時代の営業係数自体、例えば米子駅で境港駅行きの切符を買っても全額山陰線の収入になったように、境線等の枝線には不利な算定方法でした。更に、民営化後に、境線はワンマン運転の導入、ポイント切り換えの自動化等相当な合理化を行っています。赤字は相当に改善されているはずです。この程度の事実は、境線に一度でも乗ったことのある人ならば、すぐに分かることですが、多分記者は境線に一度も乗ったことがないのでしょう。

 では、具体的には、どの程度でしょうか。山陰には、私鉄のローカル線が2線あります。一畑電鉄と若桜鉄道ですが、この2線の営業係数は、94年の数値でそれぞれ142と119です。(『数字でみる鉄道'96』(財)運輸経済研究センター) 輸送人員が、それぞれ境線の79%と24%しかない非効率な両線ですら、この程度の営業係数です。境線のみが大赤字だとは到底思えません。全国には、境線よりも少ない利用者数で、黒字経営をしている地方私鉄も複数あります。私個人の予想では、最悪でも200、最良の場合は、収支トントンという可能性すらあります。

 それから、良く誤解されますが、鉄道は巨大な設備産業であり、ランニングコストは思ったほどかかりません。1日の利用者が数百人という超閑散路線ならともかく、境線ほどの輸送実績があれば、設備投資費を除いた現金収支は黒字であってもおかしくありません。

 今ある鉄道を維持するのは、それほどお金がかかりませんが、一端廃止してしまうと、将来必要になって、再度開業しようと思っても、相当の経費と労力が必要です。それこそ、税金の無駄です。廃止は、良く考える必要があります。

 次に、現在の赤字が、将来我々の負担になるのではないか、という懸念もあるようですが、毎年発生する赤字は、黒字企業であるJR西日本によって、内部補填されており、将来我々に転化されることはありません。この点で言えば、赤字体質の日本道路公団により運営されている高速道路の方がよほど不安です。累積債務が国民の大きな負担になる可能性が高いです。

 もちろん、民間企業の内部補助に頼る状況が望ましいとは思いませんが、今それを蒸し返せば、境線よりもはるかに大きな赤字を計上していると思われる山陰線や伯備線の廃止や赤字補填問題に波及します。将来的には、そういう事態が十分に考えられるとしても、JR側が何も要求していない現段階で、地元から申出るメリットは何もありません。


4.境線はただでは廃止できない

 境線問題の誤解を解くための第四弾です。今回は、廃止のコストについてです。

 特報記事の重要な骨格は、「境線を廃止すれば、滑走路地下化の40億円を出さずに済む。」ということですが、これは「JRがタダで境線を廃止してくれる」という暗黙の前提があります。しかし、これはどう考えてもおかしいです。

 JRは、営業する意志があるのに、地元が「廃止してくれ」というのですから、地元がJRにお金を出さなければいけません。記者のイメージとしては、国鉄再建法案に基づく、赤字線廃止の例(逆に廃止交付金までもらえた)があると思いますが、あれは、特例中の特例です。あの時の廃止コストは、すべて現在の国鉄清算事業団の長期債務に転化しているだけで、廃止コストを払っていない訳ではないのです。

 では、どの程度の廃止コストが必要でしょうか。少なくとも、廃止すると他に使い道がない鉄軌道敷地は、地元が買い取る必要があるでしょう。安めに平均平米3万円としても、32億円必要です。これに、線路・信号施設撤去費用、駅舎及びその敷地の買い取りを合わせれば、優に40億円を越えるでしょう。

 さらに、特報記事の最終目的である「道路交通の阻害を解除」するためには、境線を廃止するだけでは、実現できません。後藤総合車両所があるためです。しかし、後藤総合車両所を廃止すれば、従業員、関連企業を合わせて千人以上の人口減と、商品販売の減少により、米子市が受ける経済的損失は毎年数十億円を下らないでしょう。数年で百億のオーダーに上ります。それを避けるために、後藤総合車両所に移転してもらうとしても、数十億円から数百億円と見られる工場の移転費用を、全額地元が出す必要があります。

 以上、総合しますと、境線を廃止するだけで、100億円以上の経費がかかりそうです。「代替交通整備のコスト」を合わせたらいったいいくらになるのでしょうか。高々40億円をケチるために、それ以上の出費を強いられるという、本末転倒な話になります。

 実は、これだけの資金が用意できるのなら、米子-三本松間3.3kmを高架なり地下化して、道路を平面にすることが出来ます。(博労町、富士見町、後藤の3 駅を立体化)交通弱者の利用手段であり、道路の混雑緩和になくてはならない境線が残った上に、米子の旧市内と新市街との道路連絡も格段に良くなります。同じ費用を使って単に鉄道を廃止するのと、どちらの事業が米子市の将来の発展に寄与するか、一目りょう然ではないでしょうか。

 もちろん、数百億円の資金が用意できなければ、単に境線を滑走路地下を通して現在のまま存続させるのが、一番安くあがることになります。


5.空港アクセスには鉄道が最適

 境線問題の誤解を解くためのシリーズ第五弾です。

 記事中では、境線を地下化して、米子空港駅を新設しても、利用者が増えないと言っていますが、そんな事はありません。実は、空港にとっても、鉄道はぜひとも導入したいアクセス手段なのです。

 地方空港では、自家用車でのアクセスが主流です。しかし、交通弱者や他地域からの来訪者等に対して、公共交通の整備は絶対に必要です。現状の空港連絡用公共交通は、バスが主流ですが、定時性の確保、輸送力の問題、ネットワーク性など、バスよりも鉄道の方が優れている点が多いです。

 国内の空港で鉄道系のアクセスがあるのは現在7つ。どれも年間利用者数300 万人以上の大空港ばかりですが、それは、大空港でないと、鉄道を維持するに足る需要がないためです。ところが、米子空港駅は終着駅ではなく、中間駅です。空港連絡需要だけで採算を取る必要がありませんから、駅の新設は至極簡単にできるのです。

 鉄道アクセスが可能になると、料金面で倍以上の差がある連絡バス需要(現状で空港利用者の1割程度)は、ほぼ鉄道に移行するでしょう。その他にも、以下のような新規需要が望めます。たとえば、鳥取県が検討している山陰線高速化による「鳥取-米子1時間計画」が完成すれば、鳥取-米子空港間は1時間25分で結ばれます。松江方面からの直通列車ならば、普通列車としても、1時間以内で連絡可能です。自家用車が運転できない新見近辺の人は、やくも号から乗り継げば、岡山空港よりも、米子空港の方が速くて便利になります。

 どれも、現状では、利用が少な過ぎて、単独で連絡バスを設定できない地域ですが、鉄道ならば、他の旅客と混乗することで、十分採算が取れます。広域利用が容易になり、米子空港の利用促進に大きく寄与するはずです。

 もちろん、現在の境線の位置のまま地下化すると、歩く距離が長くなり不便ですから、地下化と同時に、境線を空港ターミナルに寄せなければなりません。 (経費は、そのまま地下化した場合とそれほど違いません。)また、現状の境線の運転頻度(約40分に1本)も、空港アクセスとしては、少々もの足りませんが、幸いなことに、境線は、少ない設備投資(すれ違い施設の新設)で運転頻度を30 分に1本や20分に1本にすることが出来ます。この機会にぜひとも、こうした関連投資を行った上で、境線による米子空港アクセスを実現したいものです。

 来年4月から米子空港駐車場が有料化されます。米子空港利用促進のための公共交通アクセスの強化は急務です。この滑走路延長の機会を利用して、鉄道ネットワークに空港を組み込むことにより、空港利用と、鉄道利用の相互促進を目指すのが、地域の交通にとって、一番良い姿だと思います。


6.境線維持は自動車交通のため

 境線問題の誤解を解くシリーズの第六弾です。

 例の特報記事は、要するに「境線は自動車交通のじゃまだから廃止してしまえ」という事をいっています。しかし、実際は、境線がある方が、自動車交通がスムーズにいくのは10月25日付けのこの欄で指摘しました。

 地方都市における交通手段は、自動車が中心です。それどころか、今後は、自動車免許を持つ高齢者の急増によって、ますます自動車交通は増えることになるでしょう。これは、都心部の交通渋滞や交通事故の増加など、深刻な社会問題を引き起こすことになります。

 これを解消するためには、道路を増やすか、自動車を減らすしかありません。道路を増やすことは、巨額の資金が必要な上に、「道路が出来ると便利になり、更に自動車が増える」という悪循環により、交通問題は遅々として解決しません。また、折角の施設を道路や駐車場につぶすことになり、都市機能も低下してしまいます。自動車を減らす施策と併用しないと、どうしようもないのです。

 実際、年中慢性的に渋滞している首都高速でも、盆や正月でたった1割交通量が減っただけで、スイスイと車が流れます。自動車交通量の減少による効果は、非常に大きいのです。増え続ける自動車交通を道路以外に逃がすためには、公共交通の整備、できれば道路を占有しない軌道系交通を整備するしかありません。これは、軌道系交通を、道路のバイパスとして使うことに他なりません。

 都市交通問題の先進地であるヨーロッパでは、LRTと呼ばれる快速路面電車の導入による都市交通網構築が広く行われており、都市交通問題の解決に効果をあげています。この傾向は、全世界に広がっており、日本でも、岡山や広島の路面電車の延長計画など、地方中核都市クラスで、急速に具体化しています。お隣りの松江市でも、LRT導入計画があるように、相当小規模の都市にも波及しています。

 こうした観点で境線を見ると、都心の道路交通のバイパス足りうる要件を十分に備えています。これに、バスとの連携、郊外駅への駐車場整備による自動車交通との共存(パーク・アンド・ライドといいます。)といった手法を駆使して、公共交通網を整備すれば、自動車交通の増加を最小限に抑えることが十分可能です。

 こうすることによって、無駄な道路整備を防げるだけでなく、小口貨物輸送、からだの弱いお年より、あかちゃんを連れたお母さん、といった『自動車でなければならない』交通に道を譲ることができるのです。

 自動車で道路を気持よく走るためにも、境線を始めとした軌道系交通の充実は必要です。(ある程度の利用がある)鉄道を熟考なしに廃止するのは、自動車利用者が自らの首を締める愚かな行為と言えるのではないでしょうか。


7.総合交通システムの構築を

 境線問題の誤解を解くシリーズの第七弾です。

 今まで、話を境線の存続問題に限ってきました。しかし、公共交通は、何も鉄道ばかりとは限らず、バスやタクシーもあります。増え続ける自動車交通のバイパスとして公共交通を使ってもらうためには、鉄道だけが良ければいい訳ではなく、鉄道、バス等を含めた公共交通網を「総合公共交通システム」として見立てて整備する必要があります。自家用車よりも、便利で、早く到着できなければ、利用してもらえないのですから。

 この問題に関して、最近広島市で新しい動きがありました。(10/15付日経新聞広島版より)広島市内のバス事業者、路面電車、JRの各社が、共同事業体を作り、ダイヤ・路線を一括管理し、収入も全交通機関均一として、乗り継ぎ料金を取らない。というものです。乗り継ぎによる初乗り運賃が取れなくなる分、事業者の収入が減りますが、それについては、広島市が補助をするようです。

 こうした手法は、ヨーロッパでは「運輸連合」という形態で広く普及しています。自動券売機等で、発駅(バス停)から最終目的駅までの切符を買えば、あとはどんな交通手段で、どんな乗り継ぎをしようと自由というものです。更に、市内全区間を無制限に利用できる「定期券」も一月5千円程度の安価で発売されており、市民の足として定着しているのです。

 更に、なるべく多くの人に利用してもらうために、低床車やノンステップ車の投入、一番時間のかかる車内運賃収受の完全廃止(無改札方式、信用方式といいます。)など、ありとあらゆる手段で公共交通の利便性を高め、少しでも自家用車からの転移を進めようとしています。

 実際問題として、前回指摘した「自動車交通のバイパスとして公共交通を使ってもらう」には、1月5千円程度の安価な料金と、乗り継ぎ等を考慮したダイヤ・本数の設定、大幅なスピードアップ等が必要不可欠です。広島の実験には、全国の注目が集まりそうです。総合公共交通システムを実現して、自家用車利用にも便利な都市を作る。これからの都市経営の重要な課題になると思います。

 以上、7回に分けて、境線をめぐる諸問題、最後は交通システム全体までお話しして来ました。意見の部分は、もちろん私の私見にすぎませんが、それほど間違ったことは言っていないと自負しております。大切なのは、「21世紀の都市交通を見据えた」議論をすることです。特に鉄道は、バス路線と違って、一端廃止すると、ほぼ復活は不可能です。一記者の不勉強による誤認記事により、短絡的な議論で廃止されることのないように、皆さんの冷静な判断をお願いします。