日産生命破綻に被害者はいるのか?By HIT(1997.9.26)


 戦後初めての生命保険会社の破綻が、先日ありました。全国各地で被害者の会 等が出来ていますが、この件について、本当に被害者がいるのでしょうか。検討 してみましょう。

目次

1.負担を加入者に転化?
損失補てんは正しいのか?
3.真の被害者は?
真の破たん責任者は?


1.負担を加入者に転化?

 まず、日産生命破綻による新会社への生命保険の移管に伴い、予定利率の見直 しで、保険金額の減少や、保険料の上昇がある事を指して、「経営破綻の被害を 加入者に転化するものだ」という論が多いですが、本当でしょうか。

 実は、日産生命は、バブル当時、他社よりもはるかに高い予定利率で保険を勧 誘し、自転車操業を行っていました。今回の措置は、「他社より高い予定利率を 他社並に揃えた」だけの話で、同時期に他社の保険に入った人より不利になる、 というものではありません。そのあたりをどの報道機関も報道しないのが不思議 です。

 例えば、先日日本海新聞のコラムに載った例ですと「60万円を払い込むと、20 年後に300万円貰える約束だったのが半分になった」という事ですが、20年で5倍 もの利息(ではないのですが)がつく方が異常であって、2.5倍の方が正常なのは、 誰が見ても分かることです。

 「銀行が破綻した時には、利息も保護されたのに」という論もありますが、私 は銀行の場合にも、利息部分は、保護するべきではなかったと思います。今回の 日産生命の処理のように「他社並の利息」を払うのは妥当と思いますが、倒産寸 前の銀行がつけた法外な高い金利まで保護するのは、やりすぎでした。

 まあ、保護してしまったものは仕方ありませんが、最長でも3年定期しかない銀 行と違って、30年-40年も続く保険に対して、法外な利息を払うのは、どう考えて も無理です。日本海新聞の例を見ても分かるように、20-30年すれば、ちょっとし た金利差でも、受取金額が2倍以上も異なるのですから。

 逆に加入者は、日産生命が破綻するまでの4-5年の間は、法外な高い利息を享受 できた訳ですから、得をしている可能性が高いです。事実、中途解約が続出しま したが、大半は、払込金額とほとんど同じ金額を取り戻せたようです。中途解約 では大損する生命保険では異例のことで、高利回りが幸いしたというところでし ょうか。

 では、日産生命の契約者に被害者はいないのか、と言われると、若干難しい問 題があります。それは、「ローン提携年金」という手法で、銀行からお金を借り て、この高利回り年金に加入した人です。利回りが下がったために、銀行からの 貸出金利と逆転現象が起こると、損をしてしまいます。まあ、元々銀行貸出金利 より高い保険があるなんて、おかしいと思わないのが悪い、という見方も出来ま すが、そこまで責めるのは酷でしょう。提携銀行は、金利減免等で対処するよう ですから、これで十分だと思います。


損失補てんは正しいのか?

 昨日のニュースでは、「被害者の会」が提携銀行に損失を補てんするように求 めたということですが、これは、ちょっと理不尽です。「損失」ってなんでしょ う。元の元本の5倍にもなる法外な利息だとしたら、それは、他の安全だけど金利 の低い保険に入った人に対して失礼というものです。提携ローンの金利逆転の事 ならば、銀行が「金利は減額する」といっているのですから、それで十分なはず です。『日産生命の破たんに被害者はいない』、というのが私の見解です。

 それから、銀行員が違法な保険勧誘をしていた、という件ですが、これは、す でに、バブル期の「相続税対策変額保険提携ローン」事件で100件以上裁判にな っています。変額保険の場合には、他社並の金利どころか、元本割れが続出しま したから、今回よりはるかに被害が大きいです。その裁判(ほとんどが、明○生 命と○菱銀行という名門の組み合わせ)ですが、密室での事なので、立証が難しく ほとんど加入者が負けています。唯一千葉県で、加入者が勝った例がありますが、 これは、会話を録音していたなど、証拠があったからです。

 そう考えると、事件の深刻さも全く違い、立証も難しい今回の日産生命破たん に係わる銀行の責任を認めさせるのは、難しいと思います。


3.真の被害者は?

 では、今回の日産生命の破たんで、被害者はいないのか、というと、そうでも ありません。実は、「他社の保険に入っているすべての人」が被害者といえます。 日産生命破たんに対しては、政府からの資金は一切なく、生命保険業界内で、2000 億円を拠出して対処しました。つまり、本来なら加入者への配当に回るはずだった お金が日産生命救済に消えてしまった訳ですから、これを被害者と言わずに誰を被 害者といいましょう。

真の破たん責任者は?

 もちろん、日産生命の経営者が悪いのですが、もっと悪い人たちがいます。それ は大蔵省です。日産生命の社長が破たん記者会見で行っていましたが「すでに4年 前から債務超過で、破産状態だった。大蔵省にも報告している。」4年前の債務超 過になった時点で、日産生命に業務停止命令を出していれば、ここまで被害が広が らなかったハズです。しかも、この間、日産生命は、黒字決算を計上し、あまつさ え、配当まで行っています。粉飾決算を大蔵省も後押したという国ぐるみの大犯罪 です。構図としては、住専と全く同じ、「大蔵省の政策決定ミス」です。このあた りを追及したマスコミがないのが不思議です。

 「当時は、生命保険破たん処理が整備されていなかった」というのが大蔵省の言 い分でしょうが、なければないで、それなりの道具で勝負するのが役人でしょう。 また、業務停止命令を出した後で、急きょ破たん処理法案を国会に提出したとして も、事の重大さから、即座に可決成立したはずです。住専問題と違って、税金投入 はないのですから。

 今後、金融自由化が進むに従って、破たんする金融機関も増えてくるでしょう。 郵便貯金や簡易保険とて、安泰ではないかも知れません。われわれとしては、国や 金融機関のいうことを鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えて、お金の使いみ ちを考える時代に入ったという事でしょう。


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