情報公開はこわくない(職員にとっての情報公開) By HIT


  • 情報公開はこわい?
  • 何がこわいの?
  • 情報公開はメリットがたくさん
  • 情報公開のその次は?

    1.情報公開はこわい?

     私は、情報公開制度の導入準備を担当しています。すると、私に「情報公開なんてこわいことはやめようよ」と、言ってくる職員がいます。また、正式の会議では、「情報公開はするべきだ。」と発言していても、非公式の場では、「世の中の流れだから仕方ないけど、実際には導入されない方がいい。」と本音を漏らす職員もいます。後者の職員は、「世の中のためには、いいことかも知れないけれども、職員にとっては、何らメリットがなく、むしろデメリットばかりの制度だ。」という思いがあるようです。そしてその思いが高じると前者の職員のように、「情報公開はこわい。」となるようです。
     しかし、情報公開制度って、本当に職員にとって、何もメリットのない、こわい制度なのでしょうか。
     このレポートは、情報公開制度の自治体職員にもたらす効果を検討し、「情報公開制度は、こわいものではなく、職員にもメリットいっぱいの制度」であることを検証するものです。


    2.何がこわいの?

     まず、情報公開をこわがる4人の職員の意見を聞いてみましょう。
    (1)手間が増える
    Aさん「普段の仕事でも忙しいのに、公開請求があると古い文書を探したり、非公開部分を塗りつぶしたり、手間がかかる。」
    (2)責任を追及される
    Bさん「旧来からの慣行や、制度が実情に合わないために規定をはずれた処理をしてきた部分がある。それを市民オンブズマンに指摘されるかも知れない。」
    Cさん「自分の担当している仕事は、社会情勢の変化によって、今ではあまり意味のない仕事になってきているが、それでも条例もあることなので、一所懸命にやっている。しかし、その詳しい内容が公開されて分析された結果、『税金の無駄使いだ』と糾弾されたり、裁判に訴えられたりすると、とんでもない事になる。」
    (3)意思決定を乱される
    Dさん「意思形成過程の情報を公開させられ、住民やまちづくり団体等に知られると、途中でクレームをつけられ、行政としての意思決定がやりにくくなる。」

     なるほど、どれもそれなりの理由があって、納得させられる部分もあります。しかし、これらは単に「現状が変わる事への不安」でしかありません。古い考え方を捨てて、全く白紙の視点で見てみれば、上にあげたことは、すべてメリットに変わります。次の章で検証してみましょう。


    3.情報公開はメリットがたくさん

    (1)効率的な仕事ができる
     Aさんの言うとおり、情報公開請求が出れば、公開作業の分だけ手間が増えるのは事実です。仕事量全体を増やさずに、情報公開事務にも対処するためには、効率的に仕事をするしかありません。そのために一番必要なのは、「効率的な文書管理」と「適切な文書の作成」です。なぜならば、情報公開は、「請求された公文書を探す」ことと「その公文書の公開の是非を判断する」ことが中心だからです。そのためには、「素早く検索できるように適切な文書管理を徹底する」ことと「誰がみても分かりやすい文章で過不足なく記述する」ことに尽きます。そして、これらのことは、職員自身にも多大なメリットを与えるのです。
     文書管理が徹底されて、どこにどの文書があるのか良く分かるようになる、ということは、何も情報公開請求がなくても、普段仕事を進める上で大いに役立ちます。また、情報公開にも耐えうる適切な文書作成を心掛けることも、日常の職務遂行に大いに役立ちます。適切に作成された文書は、当然ながら、公開を受けた市民だけでなく、職員が読んでもわかりやすいのです。
     情報公開をすでに実施した自治体に聞くと、大抵、情報公開をした一番のメリットは「文書管理が徹底して仕事がやりやすくなったこと」といいます。それほど、情報公開に伴う文書管理の徹底は、メリットが大きいのです。
     実際問題として、特定の職員にとってみれば、情報公開請求はそれほど頻繁に出てくるものではありません。年間通して1件も請求が出ない職員の方がはるかに多いのです。しかし、文書管理の改善と適切な文書作成を徹底させていくことのメリットは全職員に及びます。情報公開請求による手間を考慮しても、全体としてみれば、はっきりとメリットの方が大きいと言いきれるでしょう。

    (2)仕事がスリム化する
     「市民参加のための情報公開」などと目的に高らかにうたっていても、現状では、市民オンブズマン等の監視型NPO(民間非営利組織)による「行政の監視」が情報公開の中心であることは否めません。
     しかし、Bさん、Cさんの例は、彼らが個人的に悪い訳ではなく、実情に合わない規定や条例が悪い訳ですから、個人の責任を追及するよりも、規定を変えて、実情に合った簡便な事務手続に変更したり、当該事務を廃止する方が望ましいでしょう。
     実際、このようにおかしな規定ならば、日頃、職員個人としても、このままではいけない、とは思っていることでしょう。ただ、おかしいと思っていても、組織を動かして制度改正や事業の廃止をすることは、とてつもなくエネルギーが必要であって、なかなかできるものではありません。問題意識のある職員にとっては、つらいことですが、自治体に限らず、自己変革を内側から行うのは、本当に難しいものなのです。
     しかし、監視型NPOにより、これらの事例が指摘を受ければ、自治体も制度改正や、事務廃止を打ち出さざるを得ません。ちょっとした痛みは伴いますが、手続の合理化や不要事務の廃止ができるということは、結果的には自治体や職員にとって、大変良いことです。
     また、自治体が危機感を持てば、監視型NPOに指摘されるより前に、事務規定の見直しや、事務事業の廃止等を打ち出すという積極的な自己変革が行われます。問題意識はあるのに、改革がままならず、無力感を覚えていた職員も、情報公開制度ができた暁には「このまま放置すると、市民オンブズマンに指摘されますよ。」とひと言添えるだけで、幹部職員の危機意識から、すみやかに制度改正がなされることになります。この違いは大きいです。
     これによって、職員の仕事への意欲が高まりますし、手続の簡略化や、不要な事務の廃止が行われることによって、全体の仕事量が減ります。これは、職員にとっては、大きなメリットで、自治体にとっては、事務のスリム化が実現します。「情報公開は行政スリム化に効果がある」という点は、国も良くわかっているようですね。何しろ、国の「情報公開法要綱案」をまとめたのは、「行政改革委員会」なのですから。
     ところで、自己変革前の不適切な処理を、監視型NPOに糾弾されはしないか、というBさん、Cさんの懸念についてですが、他の自治体の例を見ても、個人責任を取らされることはまずありません。安心してください。謝ったり、損害を賠償するのは、首長や幹部職員です。
     もし、あなたが幹部職員なら、すみやかに自己変革を遂げるよう最大限に努力するとともに、他の幹部職員や部下の職員と仲良くなっておきましょう。賠償金を払う時に、カンパをしてくれる人は一人でも多い方がいいですから。

    (3)住民やNPOとの協働と責任分担
     最後にDさんの例です。最近は、昔と違って、市民の意識もだいぶ上がっていますので、自治体が意思形成過程を秘密にしても、事後公表時点で相当のクレームを付けてくることが良くあります。また、もし、行政がクレームを受けたにもかかわらず、当初の案を強行して、結果として失敗しようものなら、相当の厳しい反応を覚悟しないといけないでしょう。
     それ位ならば、意思形成過程の情報は公開して、広く意見を募る方が、自治体にとっても、職員にとっても、後々の仕事がやりやすくなるはずです。市民やまちづくり団体、福祉等のNPOと広く協働して意思決定を行い、事業を実施することで、この意思決定は共同責任となります。住民やNPOと責任分担することで、行政や職員は責任が軽くなるという効果もあるのです。
     また、市民やNPOの中には、行政以上に専門的な知識を持った人がいて、的確な指摘や、代案を提示してくる場合があります。事業計画を高いお金を払ってコンサルタントに委託することを考えると、NPOが自発的に代案を作ってくれるというのは、非常に魅力的です。有力な対案が出てこなければ、当初の案のとおり決定すればよい訳ですし、市民やNPOの意見を聞いて損になることはひとつもありません。回り道のように見えても、意思形成過程を透明化し、住民やNPOと協働して事業を実施することにはメリットがいっぱいです。


    4.情報公開のその次は?

     以上で見てきたように、情報公開は、職員にとってメリットいっぱいの制度だといえるでしょう。
     ただし、そのメリットはいずれも、情報公開は単なるきっかけであり、最初の第一歩でしかありません。(非常に大きな一歩ではありますが。)もう一歩進んで、文書管理を実行し、自己変革を成し遂げ、住民参加を促進させなければ、メリットは実現しません。
     特に、最後の住民やNPOとの協働が一番の難関です。この課題を解決していくためには、情報公開請求を待たずに、積極的に情報を提供していく姿勢が必要ですし、さらに、住民やNPOの意見を吸い上げるための制度(ワークショップ等)も用意していかないと意味がありません。
     日本ではまだまだNPOが未発達であり、NPOが活発しているとは言えない状況にあることから、NPOの支援策も必要となってきます。ただし、NPOは行政から自立して自由であるということが大きな存在理由となっていますから、行政がNPOの活動を規制したり、下請機関的な存在にしてしまっては意味がありません。自由で対等な立場で行政とパートナーシップが発揮できるような支援策が必要です。
     情報公開のメリットはいくつもありますが、「障害が多ければ喜びも多い」の言葉どおり、最後に掲げた「住民やNPOとの協働」が一番のメリットだと思います。自治体と住民、NPOがお互いの情報をオープンにし、対等な立場で手を取りあって、住みよい地域社会を実現していく。そうした仕事に参画できることが、自治体職員にとって最大の幸福ではないでしょうか。

    (1999.2)