地方分権時代の地方財政

by HIT [1999.10.21]
 地方分権法案も成立し、中央と地方との新たな関係がスタートしました。しかし、財政面はほとんど手付かずでした。地方財政の現状と今後の課題を検証します。

1.地方交付税の仕組み

 地方交付税は、「最低限の地方自治サービスを確保するため」に設けられた制度で、それまでは、(戦後のシャウプ勧告以来)地方自治体の経費は、全額地方税で賄われてきました。地方税でまかなうといっても、地域格差がある状態では、なかなか最低限のサービスも確保しがたく、市町村合併の強力な促進などを行いましたが、それでも、乗りきれず、こうした「地方財政調整制度」が創設されました。

 地方交付税のおおまかな仕組みは、以下の通りです。

(1)地方税の一部を、国税として徴収し、プールする。
(2)全国の自治体ごとに「最低限のサービス」のための経費を人口や面積などの「客観的指標」のみを使って計算する。
(3)全国の自治体ごとに、地方税の収入見込みを計算する。
(4) (2)-{(3)×0.75(道府県は0.8)}で計算した額を、それぞれの自治体に交付する。(5) (4)の計算がマイナスになった場合(税収で賄えている場合)には何もしない。

 (4)で、収入額の全額を対象とせずに、一定割合のみを対象とするのは、もし全額を対象とした場合には、「地方自治体が地域振興に勤め、税収を増やしても、それと同額地方交付税が減ることとなり、地域の努力が報われない。ひいては、地方が努力をやめてしまうため」です。率をいろいろ上下した結果、現在の0.75(市町村),0.80(道府県)という数字に落ち着いています。これは、逆にいうと、地方税収のうち25%(県は20%)は、最低限サービス以外の付加的サービスに投入できる事となっています。もっとも、「最低限サービス」の計算がかなりいいかげんなので、あてにはなりませんが。

 (5)の計算でマイナスになる自治体は地方交付税不交付団体といい、地方交付税は交付されません。山陰では、日吉津村が、王子製紙の儲け次第で、たまに不交付団体となっています。市町村レベルの不交付団体は、大抵がこのパターン(不相応に大きな企業がある)です。都道府県では、景気動向で、大阪府や愛知県が不交付団体になったりしますが、現在は不景気なので、これらも交付団体となっています。地方交付税創設以来、一度も交付税をもらったことがないのは、東京都だけです。


2.国庫支出金とは

 さて、地方税と交付税を合わせた額で、足りない自治体(実は大部分がそうですが)は、どうするかというと、大半は、国庫支出金という名の「国からの資金援助」でまかなっています。

 国庫支出金の中には、戸籍事務や統計調査事務などの「本来国がする事務を地方が代替してやっている」事務(機関委任事務といいます。今度の分権法で、『法定受託事務』に名前が変わりました。)の経費として支払われる『委託金』のような、決まりきった正当なお金もありますが、大半は、「地方がやりたい仕事に、国が補助してあげる」補助金です。委託金は、何もしなくても、仕事量に応じて交付されますが、補助金は、中央政府のサジ加減で決まりますから、知事や市長が上京して中央官庁の課長クラスに頭を下げるといった、図式が出来上がっています。

 地方分権の推進には、「財源」の確保がどうしても必要です。それも、補助金、委託金などの「自由にならないお金」ではなく、地方交付税や地方税といった自主運用が可能なものが。地方交付税にも、実は問題があります(後述します)から、地方税の拡充がぜひとも必要です。


3.地方債とは

 さて、地方債ですが、これは、「お金が足りないから借りる」という単純なものではありません。実は、地方債の発行(要は借金のことですが)は、いちいち自治省の許可が必要で、「足りないから借りる」ことは認められていません。家計で言っても「毎月の食費が足りないからサラ金から借りる」というのは、どうみても返済不可能で、サラ金地獄、一家心中へとつながりますから、やるべき姿ではありません。自治省は、そこまでチェックしてくれる訳で、ありがたくて涙があふれてきそうです(^_^)

 では、どんな場合に地方債が発行できるかというと、家計でいうと「車や家などの耐久消費財を購入した時」に該当する「単年度では賄い切れない大規模施設等の整備費」が対象の場合だけできます。

 地方債の内容ですが、「最低限のサービス」のための借金(例えば老人福祉施設や清掃工場の建設費)はあまりなく、大半は、分不相応な文化ホールや、車の走らない道路、ぺんぺん草の生える空港など、無くてもそれほど困らない、個人の家計でいうと「娯楽教養費」か「遊興費」(ここまでいうか)的性質のものです。

 また、バブル崩壊後には、景気対策として、お金のない国が、地方に借金をさせて土木工事をさせるという「国の景気対策の肩代わり」的借金も上乗せされています。

 地方自治体の借金自体は、返済能力さえあれば、大規模施設建設年度に集中する事業費をならす事ができる訳で、地方財政安定の意味からも、悪い事ではありません。また、地方自治体には、一定の信用力がありますから、借金を出来る限りすることにより、多くの事業をするというのも、悪くありません。ですから、問題は、借金ではなく、「借金を何に使ったか」ですね。

 住民の監視がしっかりしていて、無駄な出費はやめるようにし、なおかつ「隣町に大きなホールができたのに、なぜわが町にはない」というような無いものねだりを住民がしないようにしなければなりません。


4.地方交付税の問題点

 さて、地方交付税の仕組みは、2.で説明しましたが、実は、地方交付税制度にも、大きな問題点があります。それは、「現状の非効率を追認し、固定化させてしまう。」というものです。

 地方交付税は、各市町村の「最低限のサービス」を客観指標で算定し、それを保証するものですが、これが、現在では、ち密になり過ぎ、現状の追認になってしまっているのです。

 例えば、人口規模の小さなA町とB町があったとします。両町が合併すれば、共通する事務を合理化できて、相当の税金の節約になるでしょう。しかし、現状の地方交付税は、合併後の交付税は、人口規模に応じて、A町B町別々だった時の合計よりも、かなり少なくなってしまいます。節約できた税金分、地方交付税が減ってしまう訳で、これでは、何のために合併したのか分かりません。現在の「市町村合併を阻害しているのは、地方交付税制度だ」というのは、このためです。

 このようなち密すぎる地方交付税のため、地方自治体の行革は遅々として進みません。非効率団体が多数温存され、全国では相当な税金が、非効率団体への「補助」的用途に消えていきます。企業がたくさんある地方中核都市より、周辺の農村地帯の方が、人口比でみると立派な施設が多いのもこうした交付税の「調整のしすぎ」が原因です。

 全国には、何と「地方税比率1%」という自治体もあるようです。自らの税収で、100分の1しか事業ができず、99%を国からの援助に頼るという「自治」とは名ばかりの「たかり」団体が多数存在する現状は、なんとかしなければなりません。

 これが、交付税の元になる経費が単純に「人口と面積」だけで決まるとしたら、小規模市町村、小規模道府県の合併は一気に進むでしょう。合併により効率化を果たした団体は、余剰財源を市民の生活向上にふんだんに投入できます。

 もちろん、効率だけがすべてではありませんが、今後ますます高度に、そして専門的になっていく地方行政を小規模市町村や道府県で完遂できるとは思えません。地方交付税制度の抜本改正は、そういった意味でも必要です。


5.地方税の問題

 地方分権に伴う最大の問題は、地方財源の拡充です。誰が考えても、国の仕事を減らして、地方の仕事を増やすのですから、その財源を地方が確保するのは当然の事です。この地方財源のうち、もっとも拡充が必要なのは、「地方税」です。

 現在の「地方交付税中心、地方税補完」的な財源確保手段では、地方の自主性が育つ訳がありません。地域経営に成功して、税収を増やしても、その分地方交付税が減るのでは、やる気をなくしてしまいます。地方税の比率を上げ、交付税の比率を下げ、「半分程度の団体は、交付税不交付団体となり、本当に援助が必要な半分程度の団体だけが交付税を受け取る」くらいにしないとだめでしょう。

 現在地方の収入に占める地方税の割合は、地方財政白書H6年度決算でみると、都道府県で30%、市町村で34%です。これを、それぞれ50%を越える程度まで上げようとしますと、現在の6割アップ程度の増税になります。

 もちろん、その分、地方交付税や国庫支出金を減らす事が可能となりますから、国税は減税となります。

 今回の地方分権法では、こうした財源問題、特に税源問題がすっぽりと抜け落ちていて、非常に不満です。でも、地方自治体側から「税源よこせ」運動が起こらないのがもっと不思議です。もしかすると、自分たちで、汗水垂らして税金をかき集めなくても、国が自動的にくれる「地方交付税」に慣れ過ぎてしまったのかも知れません。どこの世界を見ても、お金を握っているところが、一番権限が強いのは当然です。地方の権限強化に地方税の強化は欠かせません。


6.地方税の改革問題

 さて、地方税を増税するとしても、どの税目の税率を上げるのか、それとも新税を取るのか、となると、難しい問題が発生します。税率はともかく、新税となると、「税務職員の問題」が発生するからです。

 一般に、国と地方の税の分担は以下のようになっています。

地方
専門性が強い賦課徴収が簡単
対象が偏在対象が満遍なく存在

 だいたい、現在の税金もこうした観点で編成されていますが、地方特別消費税(旧料理飲食等消費税)や軽油引取税など、(どちらも道府県税)地方自治体の手にあまる税金も存在します。地方税の強化のためには、こうした「賦課徴収が難しい」税金にも手を出す必要がある訳で、現在の地方自治体の税務職員では、力不足です。

 解決策としては、ドイツのように、「国は税金を徴収せず、地方が徴収し、国に上納する」ような方法もありますが、道州制にでも移行しないと、実現は難しいでしょう。現在の地方自治体のレベルで出来そうな方法としては、

(a)いくつかの自治体が共同で専門職を採用し、対処する(地方版マルサ)
(b)地方税を簡単な制度にしてしまう。

 くらいでしょうか。

 ちなみに、現在国税で取っている「消費税」は、賦課徴収がとっても簡単(ごまかしが利きにくい)で、しかも対象が全国にくまなく存在することから、本当は、地方税向きの税金です。諸外国でも、地方税として徴収している所が多いです。

 まずは「消費税を地方税に」あたりから始めると、いいかも知れません。


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