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政経考現学/時事評論

最終更新:[2000.5.4]


オウム信者ソフト開発事件 by HIT (2000.5.4)

 ちょっと旧聞に失しますが、防衛庁のソフト開発外注先にオウムの信者がいた、ということで大騒ぎがありました。しかし、この事件(とも呼べないが)は、騒ぐ論点が大幅にずれていますし、このままだと、おかしな方向に日本が行きそうで、恐いです。マスコミを見ても誰も批判していないようなので、ここで指摘してみましょう。

 事前に断っておきますが、私はオウム真理教の信者でもシンパでもなく、彼らの行ってきたことには、強い怒りを覚えています。しかし、それを割り引いても、今回の一連の報道はおかしすぎます。

 今回の事件の報道を見ていると、マスコミが批判しているのは次の点です。

この批判のどこが問題なのか、順を追って説明しましょう。

まず、はじめに、「そもそもオウム真理教の信者が一般会社でソフト開発に携わることが悪いことなのか。」という大問題があります。どうも、マスコミはみんなこの大前提を所与の命題として先に進んでいるようですが、それは論理のすり替えで、なんの解決にもなりません。まずは、ここから考えていく必要があります。

 よーく考えてみてください。問題なのは、「(オウム真理教のような)悪の結社(かどうかについても疑義がありますが、ここでは触れますまい)に国家機密が渡ったかどうか」であって、信者がどこそこにいた、という問題ではないはずです。職業選択の自由も信仰の自由も保障されている日本で、これを禁止したり、批判する方がおかしいのです。

 第一、会社が職員を雇用する際に、思想や信条、信仰を聞くことは、禁じられています。批判の中に会社側の対応を責めるものも多いですが、会社にそのようなことを期待することは、間違っていますし、もし、この批判で、社員採用時の徹底的な身元調査(差別部落出身ではないか、思想信条信仰上の問題はないかのチェック)が社会的認知を受けてしまっては、戦後の人権政策はなんだったのか、ということになります。絶対に、この点は譲っては行けません。会社がオウム信者を社員に雇う事自体は、なんら問題ではないのです。

 次に、会社に分からなくても、発注者である警察や防衛庁は、下請け職員の身元をチェックするべきではなかったか、という批判も、全く同じ理由で、的外れです。

 また、実際問題として、オウム真理教の信者を狩って追い出してみたところで、それでこの事件は解決するのでしょうか。いえ、解決しません。それでは、また別の悪の結社が出たときにも、また同じことの繰り返しで、後手後手に回ってしまいます。何ら問題は解決していないのです。

 では、今回の事件で何が問題だったのでしょうか。本当に批判を受けるべきは、何だったのでしょうか。私は、次の2点こそ、せめられてしかるべきだと思っています。

 まず、ソフト会社の機密管理体制の問題です。いろいろな社員がおり、オウムではなくても、悪いことをする社員がいろいろ出てくるご時世です。社員が会社の機密を持ち出せないような強力な機密管理体制を整えておれば、社員がオウム信者であったとしても、何ら心配いらなかったはずです。「社員はみんないい人」という性善説に基づいた日本の会社では、この点の整備が遅れており、これから早急に対処しないといけません。

 もし、これがちゃんとしてあれば、たとえ社員にオウム信者がいようとも、何がいようとも、その会社の社長は「心配いりません。我が社のセキュリティは万全です。なんら機密は持ち出せないはずですから。」を胸を張り、この事件は収束したはずなのです。

 次に、発注者の責任ですが、彼らは、委託先企業内の身元調査などにうつつを抜かすべきではなく、「委託先企業に、上に述べたような機密保持体制が整っているか」どうかを重点的にチェックするべきだったのです。機密保持には、コストがかかりますから、ちゃんとした会社はいいかげんな会社より経費がかかるでしょう。しかし、国家機密等を守るためには、当然負担すべきコストです。タックスペイヤーの国民も十分納得するはずです。

 また、今回の例では、発注者が「丸投げ」ともいえる手法で委託した点も問題です。丸投げでは、ソフトの全体像が委託先に把握されてしまいますから、機密漏れを防ぐことができません。部分部分を別々の会社に発注して、自らがそれを最終組み立てして使う、位の慎重な発注方法を取らないと、機密は守れません。

 今回の事件では、こうした高度の機密保持策以前のお粗末な例も分かっています。警察がテストデータに、本当の覆面パトカーのナンバーを渡したという件で、こんな大ポカは、たとえ社員にオウム信者がいないとしてもやってはいけないことです。テストデータなんですから、架空のデータでよかったはずで、渡さなくてもいい秘密を渡してしまうなんて、秘密管理の初歩の初歩のお話です。オウム信者の魔女狩りにいそしむよりも、こうした基本的な機密管理体制の建て直しこそ、行うべきなのです。

 以上、まとめますと、今回の事件の教訓は、間違っても、「オウム信者は絶対に雇わず、社員に入り込まれないように、身元調査を徹底し、発注した国家も下請けの身元調査を徹底する」なんて魔女狩りではさらさらなく、「会社はすべからく機密管理をしっかりし、国家も発注の際には、管理のしっかりしたところに発注し、国家自身の機密管理をしっかりする」ということなのです。

 皆さん、気が付いてください。オウム信者がスケープゴートにしても何も得るところはありません。変わりに他の悪の組織が入り込んできたら、またイタチごっこになるだけです。それよりも、どんなときにも持ちこたえられるきちんとした機密管理体制の整備こそが求められているのです。

 常に、世の中の本質を見失わないように。マスコミや皆さんの冷静な判断を望みます。

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