HITの夢の税金-給与所得控除の大幅縮小を

By HIT(1997.2.10,1997.2.14,1999.9.6)

はじめに

 「すべての税金は所得から支払われる」という格言もあるとおり、正確な所得の把握ができ、適切な控除、税率を定めることにより、弱者対策も万全にとることができる『所得税』は、『究極の税金』と呼ばれている、税制の切り札です。

 しかし、現在の所得税は、数々のゆがみが生じて、本来の機能を発揮できていません。ゆがみの中でも、「利子配当優遇税制の廃止」と「サラリーマン優遇税制の廃止」だけで、かなりの税収をねん出できます。前者は別項で述べることとして、本項では、サラリーマン優遇税制の廃止問題について、論じてみましょう。


サラリーマン優遇税制とは

 サラリーマン優遇税制というと、「サラリーマンは多くの税金を払っていて、優遇なんかないはずだ」とおっしゃる方もおられるでしょうが、立派に優遇税制があります。これは、所得税の抱える矛盾の中でも最大のもので、そのために、実経済にも数々の弊害をまき起こしています。

 それは、『給与所得控除の額が大き過ぎる』というものです。給与所得控除とは、給与所得者の必要経費に相当する部分で、給与所得額に応じて一定額を控除して、所得とすることができます。(というか、それしかできない。)

 例として、給与所得600万円だと、何と240万円も給与所得控除があります。(1997年現在)月に直すと20万円にもなります。実際の話、月に20万円も仕事の必要経費を使うサラリーマンなんて、ほとんどいないでしょう。このように、給与所得控除は、すべての収入帯に対して、恐ろしく過剰になっています。

 「図説日本の税制(平成7年度版)」(大蔵省主税局調査課長編、財経詳報社)によりますと、給与所得控除の金額は、日本の給与総額の28%にも達しているそうです。収入の30%近い額が、何の精査もなく、自動的に非課税になっているというのは、異常としかいいようがありません。


給与所得控除で得をするのは自営業者?

 これに対して、「トーゴーサンとか言われるように、サラリーマンは、所得がガラス張りなので、この程度の利得は当然」という人もいるでしょうが、脱税者を前提の比較は意味を持ちません。

 でも、実は、給与所得控除で、得をするのは、サラリーマンだけではありません。、「自営業者は、給与所得控除を自由に使用できてしまう」ので、サラリーマン優遇と思った制度が、サラリーマン以上に自営業者を利する事になるのです。

 というのが、家族を使用人とみなして、給与を払った事にする(青色専従給)、とか、事業主本人にも給与を払った形にする(みなし法人)といった手法で、自営業者は、必要経費をすべて差し引いた後の所得から、何重にもこの過大な給与所得控除を差し引くことができるのです。

 さらに、これを完ぺきにするには、法人成りをして、個人事業でも、法人にしてしまうことです。いわゆる「節税法人の設立」というやつですが、日本では、この節税会社が多数存在します。事業が発展して、資金調達や信用面で法人成りするのは、何等問題はないのですが、個人の税金節約だけを目的にした法人なんて、『公的資源(会社登記制度なども税金で維持されている)の無駄使い』以外の何者でもありません。


過大給与所得控除の弊害

 また、この給与所得控除が大きいせいで、日本は、諸外国と比して、所得税の課税最低限が著しく高いという欠点があります。所得税を払っていない人が多く、税の公平を欠いています。

 あれもこれも、『給与所得控除が過大』なためですから、給与所得控除を適正にすれば、節税法人の大半は廃止され、経済のムダも無くなります。そして、サラリーマンと自営業者の税負担の格差もある程度解消されます。

 また、日本では、社会保障を税方式ではなく、保険方式で行うことが多いですが、(年金、健康保険、介護保険等)これも実は、『給与所得控除が過大』なため、所得税を払っていない人が多過ぎ、保険方式でないと成り立たないため、という見方も出来ます。給与所得控除を廃止し、課税最低限を大幅に下げれば、何も税と別立てで、徴収するという二度手間をかけなくても、社会保険の税化を行って、行政効率のアップすることも可能です。


改善案の試算

 税務署に行ったり、書店を探しても、あまりいい資料はなかったのですが、「H6年分税務統計から見た民間給与の実態」(国税庁企画課:1100円)という本を手に入れたので、それを元に試算します。この本は、「民間企業の給与に対する各種税務統計」を集めたものです。ですから、公務員、自営業その他のデータはありません。

 しかし、民間給与所得者の納税額は、H6年分で11.2兆円、H8年換算(特別減税前)で12.6兆円もあります。H8年所得税の総額(特別減税後)は、19.3兆円ですから、実に所得税の半分強は、民間給与所得者となります。増税の指標には、十分なるのではないでしょうか。

 年間給与額階層別に試算してみましょう。表中の税額等は、H6年分をH8年(特別減税前)に換算した数値です。

年間給与人数平均給与給与所得控除現状税額[A]案[B案]
税額税率税額税率
100万円未満3472千人72万円65万円1万円4万円4.004万円4.00
200万円未満4277千人154万円65万円4万円7万円1.757万円1.75
300万円未満7045千人255万円94万円9万円15万円1.6715万円1.67
400万円未満7770千人350万円123万円13万円22万円1.6922万円1.69
500万円未満6340千人448万円144万円18万円29万円1.6129万円1.61
600万円未満4722千人550万円164万円24万円42万円1.7538万円1.58
700万円未満3129千人648万円184万円31万円59万円1.9046万円1.48
800万円未満2195千人747万円195万円42万円75万円1.7958万円1.38
900万円未満1436千人847万円205万円59万円94万円1.5977万円1.31
1000万円未満947千人950万円215万円79万円116万円1.4799万円1.25
1200万円未満1169千人1096万円225万円105万円144万円1.37127万円1.21
1500万円未満694千人1333万円237万円171万円233万円1.36206万円1.20
2000万円未満382千人1706万円255万円353万円422万円1.20394万円1.12
2000万円以上148千人2859万円313万円799万円941万円1.15894万円1.09
43726千人 12.6兆円19.3兆円 17.3兆円 

[A]...給与所得控除を一律30万円とした場合(税率はそのまま)
[B]...[A]に加えて累進税率の緩和を行った場合

 [A]案ですと、なんと年間6.7兆円の増税になります。再度断っておきますが、これは、「民間給与所得者のみ」の試算です。所得税全体だと、相当な金額になります。

 [B]案は、[A]案では、急激に税金が増え過ぎる500-800万円の階層の為に、累進税率の緩和を行った場合です。

税率現行及び[A]案[B]案
10%1- 330万円1- 500万円
20%330- 900万円500-1000万円
30%900-1800万円1000-2000万円
40%1800-3000万円2000-4000万円
50%3000万円以上4000万円以上

 この[B]案でも、年間4.7兆円の増税になります。

 厳しい増税である[A]案でも、年収300-600万円での負担増加額は、月1-2万円程度ですから、貯蓄に回る分が減少するとは思いますが、家計が破たんするほどの増税ではないと思います。

 更に、社会保険の廃止(税化)と併用すれば、この程度の負担増は、あっという間に吸収され、トータルしたサラリーマンの手取りは、減って、「減税と同じ効果」が現れるでしょう。

まとめ

 このように、所得税の適正化には、数兆円に及ぶ給与所得控除の大改革が必要不可欠です。また、間接税と違って、所得税の適正化による部分増税は、「痛み」を伴いますから、国民の納税者意識の向上、行政監視の意識の芽生えが助長されます。

 ちなみに、「日本は直接税が高く、間接税が低い」という税務当局のキャンペーンを信じて、『日本の所得税は高い』と思っている人も多いようですが、それはウソです。(実は税務当局も、所得税が高いとは、ひと言も言っていないのですが。)高額所得者は別として、年収1,000万円以下のサラリーマンですと、日本より税金が安い所を探すのが難しいくらいです。増税の余地は、大いにあるのです。

 増税するのならば、『まず所得税を』、そして『給与所得控除の廃止』をするべきでしょう。


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