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伯備線高速化事業の採算性に関する調査報告書

1998年3月16日

HIT


I. 目的と背景
1.目的

 このレポートは、伯備線の高速化事業を採算性の面から検討し、その実現の方法を探ることを目的とする。

2.伯備線の沿革

 JR伯備線(倉敷-伯耆大山。営業キロ138.4km)は、山陽と山陰を結ぶ幹線である。山陰中央部(鳥取県西部及び島根県出雲地方)と山陽方面を結ぶだけでなく、山陽新幹線を介して、京阪神、中京、東京、広島、北九州などの各方面への乗り継ぎ需要も多数にのぼっている。

 1972年の山陽新幹線の新大阪-岡山開業で、京阪神と山陰中央部を結ぶ最短時間路線として、一躍脚光を浴びた伯備線は、岡山-出雲市・益田間に4往復の「新型気動車特急やくも」が運転された。その後、列車本数は増加しつづけ、直流電化と「新型振り子式電車」の投入による所要時間なども経て、1998年3月現在で、岡山-出雲市間に15往復の特急列車が運行されており、1時間58分〜2時間18分で岡山-米子間を結んでいる。新幹線乗り継ぎによる所要時間は、新大阪-米子間を、最短2時間46分で結んでいる。

 1998年7月には、東京-出雲市間に新型寝台特急が1往復投入されるなど、現在でも、伯備線の機能強化は続いている。

 優等列車以外の鉄道輸送は、通勤・通学を主とした普通列車輸送と、貨物輸送がある。普通列車は、沿線人口の少さから、山陽側の一部を除いて、ローカル線なみの輸送量しかない。貨物輸送については、山陰線から貨物列車が全廃されたため、伯備線は、山陰唯一の貨物列車が走る線区となっている。

3.伯備線の利用状況

 伯備線の優等列車の輸送人員は、JR各社が公表しないために、正確な情報はないが、各種統計資料から、ある程度推計することは出来る。独自推計によれば、伯備線の方面別利用状況(優等列車のみ)は、以下のようなものである。輸送密度は、約4,850人/日/kmとなる。利用者の8割近くが、「新幹線との乗り継ぎ」利用客である。

伯備線の方面別利用者数(単位:万人/年。1995年推計値)

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        東京圏 東海圏 京阪神 岡山圏 広島圏 九州   計

米子圏     7.6  3.4  38.6  19.6  8.2  4.1  81.4

松江・出雲圏  12.3  6.4  32.1  18.8  18.3  7.7  95.6

   計     20.0  9.8  70.7  38.4  26.5  11.7  177.1

(構成比)    11.3%  5.5% 39.9% 21.7% 14.9%  6.6%

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推計方法:「1995年度旅客地域流動調査」(運輸省運輸政策局情報管理部編。(財)運輸経済研究センター発行)の道府県間旅客流動人員[JR定期以外]を集計。米子圏、松江・出雲圏の流動人員は、県人口に占める圏域人口(1995年3月31日現在住民基本台帳人口)で配分。隣接県間は、数字を減じている。(普通列車利用客等の除去のため)

4.伯備線の経営状況

 輸送人員と同じく、線区別の経営状況もJR各社は公表していない。公表データから推計した結果は、以下のとおり。なお、普通列車利用者の営業収入は無視している。

 見て分かるように、伯備線単独では、年間40億円近い大赤字である。しかし、伯備線のような新幹線乗継が主流の線区は、新幹線乗継割引制度などのため、客単価が低くなり、単独の収支が悪くなる。したがって、伯備線単独の収支ではなく、伯備線から新幹線に乗り継いだ旅客による新幹線部分の収支を加えた通算の収支で見るべきである。

 通算した営業収支は、年間20億円近い黒字である。東海道・山陽新幹線は、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)に別れているため、伯備線と同じ経営母体のJR西日本管内の新幹線(新大阪-博多間)のみの数字を抜き出しても、営業収支はほぼ均衡している。

 俗に言われている「山陰地方の鉄道はすべて大赤字」という論とは裏腹に、伯備線は、新幹線との相乗効果により、JR全体でみれば大きな黒字を、JR西日本単独でみても、収支均衡という優等線区と言える。

伯備線(岡山-米子間)の営業収支(1995年度。推計値)

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         営業収入   営業費用   営業収支   営業係数

伯備線単独    52.3億円   91.8億円  -39.6億円    176

新幹線通算    134.8億円  115.5億円   19.3億円    86

(全体)

新幹線通算    111.6億円  107.6億円   4.0億円    96

(JR西日本管内)

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推計方法:営業収入は、方面別利用者数に客単価を掛けて集計。伯備線の営業費用は、状況の類似したJR四国全体(平均輸送密度が6,358人と伯備線に近く、振子型列車も多く走っている。)の営業費用単価5,772万円/kmから試算。(JR四国の数字は、「数字でみる鉄道'97」(運輸省鉄道局監修。(財)運輸経済研究センター発行)より。)新幹線の営業費用は、鉄道経営研究家の肥後雅博氏が求めた1993年度の東北・上越新幹線の営業経費単価6.1円/人/kmを採用。

5.伯備線を取り巻く現状

 伯備線のメインターゲットである京阪神-山陰中央部間の高速公共交通は、伯備線以外に、航空機と高速バスがある。それぞれ1995年度の輸送実績は、以下のとおり。京阪神-山陰中部間の公共交通の中で、鉄道が最も多い輸送実績を誇るが、京阪神-米子間では高速バスが、京阪神-松江・出雲間では航空が、鉄道輸送の半分を越える輸送量を誇り、鉄道にせまっている。

山陰と京阪神を結ぶ公共交通の輸送実績(確定値:1995年度)

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 種別   路 線   会社     頻度   年間輸送実績

 航空  大阪-米子  JAC     1日 3往復   80,374人

     大阪-出雲  JAS¥JAC   1日 5往復  196,392人

高速バス 大阪-米子  日交・阪急  1日13往復  209,550人(*1)

     神戸-米子  日交     1日 4往復   18,467人

     大阪-出雲  一畑・阪急  1日 5往復  121,000人(*2)

           JRバス中国

     京都-米子  日交・京阪  1日 4往復 (1998年度新設路線)

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(*1)高速バス・大阪-米子線の輸送実績は、日本交通分のみで、阪急電鉄分を含まない。

(*2)1995年度道府県間旅客地域流動調査からの数値。

参考資料:近畿運輸局業務要覧,中国年鑑'98(中国新聞社発行)

[略号]JAC:日本エアコミューター,JAS:日本エアシステム,日交:日本交通,阪急:阪急電鉄,一畑:一畑電気鉄道,JRバス中国:ジェイアールバス中国,京阪:京阪電気鉄道

6. 伯備線高速化の必要性

 伯備線が、山陰中央部と京阪神をはじめとする他地域との旅客輸送の大動脈であるのは、以上で述べたことで明らかである。年間180万人近い輸送人員は、他の交通手段での代替はほぼ不可能であり、今後も、その機能を維持していく必要がある。

 一般に、鉄道輸送は、「高速大量輸送」に対して威力を発揮する。エネルギー効率(環境問題に直結)の面でも、鉄道輸送にかなう旅客輸送手段はなく、今後深刻化する環境問題の切り札としても、期待されている。

 また、地域交流の促進に重要な、所要時間の短縮という面から見ても、道路交通、航空のどちらも、これ以上のスピードアップが望めない現在、更なる高速化は鉄道に求めるしかないのでが現状である。


II. 鉄道の高速化手法

1.新幹線(フル規格新幹線)

 鉄道の高速化の切り札は、言うまでもなく「新幹線建設」である。在来線が、踏み切り停止距離600mという制約から、最高速度が110-130km/h程度に制限され、しかもカーブでの減速などで、思うようにスピードが出せないのに対して、高速輸送のために建設された新幹線は、カーブも極力抑え、踏み切りをなくすなど、高速化の条件を兼ね備えている。技術の進歩もあって、現在では最高速度300km/hの超高速列車も走っている。技術的には、350km/h運転もすでに視野に入っており、将来性も考えれば、新幹線建設が一番良いのは確かである。

 幸いにも、伯備線は新幹線の基本計画線(中国横断新幹線岡山-松江線)に選ばれている。これを整備線や工事線に格上げして整備できれば、新大阪-米子間を1時間30分程度で結ぶことができ、地域交流に大きなインパクトを与えることができる。

 しかし、新幹線建設は、政府の鉄道冷遇予算のために遅々として進まず、整備3線(東北新幹線、北陸新幹線、九州新幹線鹿児島ルート)ですら、何十年後に開通するか分からないのが現状である。その後に控える北海道新幹線、九州新幹線長崎ルートの建設を終えるまでは、次の新幹線建設はないものと思われ、30年以内の伯備新幹線着工はほとんど考えられない。

 フル規格新幹線の整備に必要な額は、1キロあたり45-70億円程度である。

2.狭軌新幹線(スーパー特急)

 フル規格新幹線は、在来線と線路幅が違う(新幹線=標準軌、在来線=狭軌)ため、駅舎から何からすべて在来線とは別に作る必要があり、そのため、工事費が嵩むという、欠点がある。そこで考え出されたのが、このスーパー特急方式の整備例である。正式名称は「新幹線鉄道規格新線」方式であるが、ここでは簡単に、狭軌新幹線と呼ぶことにする。

 つまり、踏み切りなし、急カーブなし、途中駅なし、というフル規格新幹線の高速化のための条件はすべて満たした「高速新線」を在来線の線路幅で作るのである。これによって、在来線との直通が自由となるため、駅舎や車両基地などは、既存のものが流用できるなど、コストがかなり低く抑えられる。

 また、フル規格新幹線と違って、「部分開業」が出来るのも大きな特長である。つまり、峠越え等の高速化のネックになっている部分のみを先行して狭軌新幹線で開業し、次に別の峠部分、最後に残り区間というように、部分部分効率的に高速化が実現できるのである。

 スピード面でも、200km/hは確実に出せると言われており、240km/h程度までは射程圏内である。このスピードは、初期のフル規格新幹線のスピードであり、フル規格新幹線と比べても、そん色ないレベルの高速化が可能である。現在、北陸新幹線の糸魚川-魚津、石動-金沢間がこの手法で整備されている。

 ただし、この狭軌新幹線にも欠点がある。在来線との直通が自由な代わりに、フル規格新幹線と直通ができない。日本の骨格をなすフル規格新幹線とは、乗り換えという非常に煩わしい手間が残ることになる。

 狭軌新幹線の整備に必要な額は、キロあたり40-55億円程度である。

3.在来高速線

 在来線規格であるが、踏み切り除去、高速通過ポイントの採用、高速対応信号システムの採用などで、在来線限界の130km/hを越えて、160km/h程度の高速化を実現する手法がある。それをこのでは在来高速線と呼ぶことにする。昨年開通した北越急行のほくほく線が第1号に該当する。ほくほく線は全線単線の新線だが、現在140km/h運転を行っており、近い将来160km/h運転をする予定である。

 この在来高速線は、何も新線でなくとも、既存の在来線でも、線形が良い(カーブが少ない)路線ならば、改良工事によって、高速化が可能である。JR西日本の湖西線(全線高架で踏み切りがない)などが、候補に上がっている。山陰で適用するとすると、智頭急行線や、伯備線の伯耆溝口-伯耆大山間などの、線形も路盤も万全な路線が候補に上がる。

 在来高速線は、新線建設の場合は、キロあたり21億円程度、既存線区の改良には、キロあたり4億円程度必要である。(踏み切り除去にかかる立体交差化工事費用を除く。)

4.ミニ新幹線(新幹線在来線直通方式)

 フル規格新幹線にしろ、狭軌新幹線にしろ、全く新しい新線をつくるために、工事費は巨額にのぼる。しかし、すでに新幹線が近くまで来ている線区については、巨額の費用をかけて新線を建設しても、短縮できる時間はわずかで、費用対効果が悪い。それより、心理的肉体的負担である新幹線と在来線の乗り継ぎを解消した方が、利便性は大いに増す。

 そこで、「新線を建設するのではなく、在来線の線路幅を標準軌に広げて新幹線と在来線の直通を可能にする」のが新幹線在来線直通方式である。在来線を通るために、普通の新幹線車両よりは、一回り小さい専用車両を使うので、ミニ新幹線方式と呼ばれている。

 この方式の利点は、乗り継ぎがなくなることと工事費が安いことであるが、欠点もいくつかある。

(1)線路幅を変えてしまうため、他の在来線との直通ができなくなる。

(2)新線でないので、スピードは従前と同じ。つまり「ちっとも速くない」

(3)線路幅変更工事のために、長期間運休する必要がある。

 現在、山形新幹線(福島-山形)、秋田新幹線(盛岡-秋田)の2区間が開通しており、山形新幹線の新庄延長(山形-新庄)が決定済である。

5.軌間可変列車(フリーゲージトレイン)

 ミニ新幹線は、新幹線と在来線の乗り継ぎ解消という、心理的スピードアップを安価でもたらした。しかし、重大な欠点があるため、どこの線区でも導入可能という訳にはいかない。

 それに対して、在来線を改軌しなくても「車両側で車輪幅を変えて、新幹線と在来線を直通してしまう」列車を現在、鉄道総合研究所(JR総研)等が開発中であり、これを軌間可変列車(フリーゲージトレイン)という。軌間可変列車は、ミニ新幹線の欠点の(1)と(3)を解消するだけでなく「工事費がケタ違いに安い」というメリットも持っている。つまり、新幹線の乗り継ぎ駅周辺に、『軌間変更装置』という、その上を自走するだけで車輪幅が自動的に変わる線路を設置するだけで、その他の地上設備は一切必要ないからである。

 例えば、岡山駅周辺に軌間変更装置を設置すれば、それだけで伯備線、山陽線下り、瀬戸大橋線(高松、松山、高知)の各方面への直通が可能となる。非常に効率良く、新幹線在来線直通運転ができるのである。

 問題は、この軌間可変列車が本当に実用化可能かどうか、という点であるが、すでにヨーロッパでは、軌間可変列車が走っており、高速新線上を300km/h近いスピードで走行している。JR総研では5年以内に、JR西日本では10年後をめどに開発したいと言っている。

 JR西日本が開発に時間がかかるのは、JR西日本の場合、投入対象線区(伯備線、紀勢線)が、振り子型列車が必要な線区であり、「振り子付き軌間可変列車」という技術的に高度なものを求められるからである。

 軌間可変列車の整備に必要な工事費は、投入区間の距離に関係なく全体で50-100億円程度である。(車両代含まず。)

6.在来線の一般的な高速化工事

 以上、新線建設や、改軌、軌間可変列車など、特殊な高速化手段を説明してきたが、在来線の高速化には、定番ともいうべき一連の工事がある。駅通過速度向上のためのポイントの交換(直線化)、路盤補強、カント量(線路の傾き)の増化、踏み切り警報位置の修正等である。

 一般的高速化工事の費用は、キロあたり2,000万円から3,000万円である。

7.複線化

 複線化は本来高速化の手段でなく、輸送量増加の手段である。しかし、単線区間での擦れ違いが多い場合には、複線化によって、時間を短縮できる場合がある。

 複線化の必要工事費は、キロあたり10-20億円程度である。

8.伯備線の高速化はどれが適しているのか

 伯備線の高速化は、山陰-京阪神をターゲットに行うものであり、そのためには、「乗り換え不便の解消」は不可欠である。

 乗り継ぎを解消するには、ミニ新幹線と軌間可変列車の2種類があるが、経費的にも、その後の波及効果面からも、軌間可変列車の方が勝っている。従って、伯備線の高速化は、「軌間可変列車の導入」を基本とし、それに「一般的高速化」や「複線化」、「狭軌新幹線」、「在来高速線」を組み合わせていくのが、望ましい。


III. 伯備線の高速化の具体案

1.軌間可変列車の必要性能

 軌間可変列車は、現在(財)鉄道総合研究所で開発中であるが、その性能は、現在のところ以下のようなものである。

(1)最高速度は250km/h(新幹線軌道上)。

(2)車体傾斜機能(振子機能等)はない。

 しかし、このままの性能では、伯備線の新在直通に用いるにはかなり問題がある。まず、(1)についてであるが、最高速度が低過ぎる。現在、新幹線の最高速度は、500系のぞみが300km/h、300系のぞみ、一部のやまびこが275km/hを実現している。275km/hやまびこと併結して使用されるミニ新幹線こまち(秋田新幹線)も275km/hを実現しており、250km/hという最高速度は、ミニ新幹線よりも遅い、一世代前の速度である。これでは、「直通列車に乗るより、岡山駅で降りて、乗り換えた方が速い」という事態になり、新在直通の機能が十分発揮できない可能性が高い。

 次に(2)の車体傾斜機能であるが、これがないと、カーブを高速で通過できない。カーブが多い伯備線には、現在、振子電車が導入されているため、車体傾斜機能のない列車を投入すれば、カーブでの減速を強いられることになるため、所要時間が現在よりも伸びてしまう。いくら新在直通列車を導入したとしても、現在より所要時間が増えるようでは、「高速化」とは言えないし、波及効果も限定されてしまう。

 従って、伯備線に投入すべき軌間可変列車は、現在鉄道総合研究所で開発中のものではなく、JR西日本が開発表明している以下の性能を持った第二世代の軌間可変列車である。

(1)最高速度275km/h(新幹線軌道上)。

(2)車体傾斜機能あり。

 鉄道車両の寿命は20-25年。一度導入すると、4半世紀近く同じ車両を使い続けなければならない。稚拙な選択で性能の低い車両を導入するより、じっくり待って、十分納得の行く車両の導入をする必要がある。

2.軌間可変列車の走行区間

 伯備線から新幹線に乗り入れる場合、8割近い利用者が向かう京阪神方面へ直通する方が

広島方面へ乗り入れるよりメリットが大きいのは、明らかである。問題は、どこまで乗り入れるかである。

 東京まで乗り入れられれば理想的であるが、東海道新幹線区間(東京-新大阪)の輸送量が逼迫している現状では、軌間可変列車のような、車両が小さく輸送力が落ちる車両が乗り入れるのは、無理である。

 従って、この新型軌間可変列車の運転区間は、「新大阪-出雲市間」とする。

3.軌間変更装置の設置位置

 伯備線を新幹線直通化するためには、新幹線乗り換え駅である岡山駅周辺に軌間変更装置を設置しなければならない。位置はいろいろあるが、岡山駅東方に設置した方が、何かと都合が良い。

(1)各方面で共用できて経費が安くなる

 岡山駅東方なら、伯備、山陽下り、宇野線(高松、松山、高知方面)と共用できて、経費が安く上がる。

(2)岡山駅新幹線ホームの増設が不要

 岡山駅西方なら、新大阪から方面から来た直通列車の併合分割等のため、現状の新幹線ホーム(2面4線)では足りず、増設が必要となる。高架上の増設工事となり、相当の費用がかかる。しかし、岡山駅東方で在来線に降りた場合には、岡山駅の在来線ホームがそのまま流用できるため、ホーム増設が不要である。

4.一般的高速化工事

 現在の伯備線の区間別最高速度は、以下の通りである。最高速度の向上は、新型振子列車(制御式振子)の導入とともに、在来線の限界である130km/h化を目指すのが妥当である。

伯備線の区間別最高速度(1997.9月現在)

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   区  間     最高速度  目標速度

 岡 山-倉 敷    120km/h  同じ

 倉 敷-備中高梁   120km/h  130km/h  +10km/h

備中高梁-江 尾    110km/h  130km/h  +20km/h

 江 尾-米 子    120km/h  130km/h  +10km/h

 米 子-出雲市    120km/h  130km/h  +10km/h

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5.複線化区間

 現在の伯備線の複線化区間は、以下の通りである。複線化工事は、擦れ違いの解消のために行うが、これによりメリットを受けるのは、主に特急列車ではなく、普通列車利用者である。普通列車利用者の多い区間を複線化することで、特急列車の高速化による普通列車の遅れを回避できる。そこで、複線化区間として、以下の区間を提案したい。これにより、山陰で一番旅客流動がある米子-松江間が全線複線化になる上、松江-出雲市間の複線化率も50%を越える。ダイヤ編成の自由度が大幅に増すことになる。

伯備線の現在の複線化区間と新規複線化区間案

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   現 状      新規区間案

 岡 山-倉 敷    安 来-東松江

 倉 敷-備中高梁   来 待-宍 道

 井 倉-石 蟹    荘 原-直 江

 新 見-布 原

伯耆大山-安 来

 東松江-松 江

玉造温泉-来 待

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6.高速新線建設区間

 伯備線の利用促進という意味だけならば、軌間可変列車の導入と、一般的高速化工事だけで、ある程度目的は達せられる。しかし、それだけでは、各方面への所要時間短縮、地域間交流の促進といった目標は達成されない。

 また、フル規格新幹線と違って、ミニ新幹線の導入による集客効果は、意外と長もちせず、山形新幹線を見ても、収客効果は年々落ちている。やはり、全般的なスピードアップが必要不可欠である。

 従って、伯備線でも、高速対応新線を建設し、最高速度160km/h〜200km/h程度の高速化を実現し、表定速度(平均速度)を少なくとも100km/h以上にする必要がある。

 高速新線の建設区間の条件としては、「なるべく現行の条件が悪い線区」や「短絡線が建設可能」な線区を選ぶべきである。現在の区間別最高速度や、区間別評定速度を参考にすれば、以下の3区間が候補となる。

高速新線建設候補区間

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新見-生山間

新見-根雨間

備中高梁-新見間

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 なお、新見-根雨間の高速新線は、生山を経由する従来のルートと、生山を経由しない、短絡ルートの2つが想定される。

 新見-根雨間を短絡ルートで建設すると、かなりの距離の短縮になるため、時間短縮、維持経費節減など、数々の面でメリットが大きい。反面、生山という特急停車駅に、新型特急が走らなくなり、場合によっては、線路が廃止になる、というデメリットも合わせ持つ。

 しかし、以下の理由で、新見-根雨短絡新線の建設、既存伯備線の分離(三セク化または廃止)も十分検討に値すると考えられる。

(1)根雨-上石見間は利用が少ない。

 JR民営化時の赤字ローカル線の廃止ルールに当てはめて考えてみると、伯備線の新見-根雨間は、優等列車を除くと、到底その輸送人員をクリアしていないと考えられる。多分、三セク化した若桜鉄道以下である。

 その上、県立高校の廃止統合で、黒坂にある日野産業高校は、廃止または統合がほぼ確実視されており、利用者減少に拍車を掛ける可能性が高い。もはや、鉄道として維持するに足る路線ではない、と言える。

(2)米子-生山間は、バスの方が速い。

 現在の米子-生山間は、普通列車で55-75分、特急列車で36-45分かかっている。しかし、この区間を走る広島-米子特急バスの所要時間は、43分であり、バスの方が普通列車より、はるかに速い。伯備線新見-根雨間を廃止して、米子-生山間に特急バスを公費負担で走らせたとしても、年間維持経費は、2,000〜3,000万円程度であり、キロ当たり5,000万円程度の維持経費がかかる鉄道を維持するよりは、はるかに効率的である。

 また、根雨-生山間も、既存のバス路線は、鉄道とそん色のない所要時間で運行されており、将来に渡ってこの区間を鉄道で残す必要性は薄い。

(3)整備新幹線区間では、平行在来線は分離される。

 整備新幹線建設に伴い、平行在来線は、経営をJRから分離されることが決まっている。第1号として、長野新幹線の開業で、平行在来線は、三セク化され、一部は廃止となった。今回の伯備線の高速化を、新幹線建設事業の一部と考えれば、平行在来線である新見-根雨間の分離または廃止は、十分妥当な選択である。

7.高速新線の種類

 高速新線の整備手法で、伯備線に適用できそうなのは、「在来高速線」と「狭軌新幹線」に2種類である。それぞれの長所、短所は以下の通り。

(1)在来高速線

 長所

 ・工事費が安い。

 ・駅間隔を狭くできる。

 短所

 ・スピードが遅い。

 ・更なる高速化は不可能で、発展性がない。

(2)狭軌新幹線

 長所

 ・スピードが速い。

 ・線路の引き直しだけで、フル規格新幹線に転換できるため、将来の高速化が可能。

 短所

 ・工事費が高い。

 ・途中駅が廃止になる。

8.まとめ

 以上の検討の結果、このレポートで検討する整備手法は、以下のとおりとする。

(1)軌間可変列車   新大阪-出雲市間で運転

(2)一般的高速化工事 倉敷-出雲市間の新線建設区間以外すべて

(3)複線化工事    安来-東松江、来待-宍道、荘原-直江

(4)新線建設     なし、新見-生山、新見-根雨、新見-根雨(短絡)、

           備中高梁-生山、備中高梁-根雨、備中高梁-根雨(短絡)

(5)新線整備方式   在来高速新線(単線)、狭軌新幹線(複線)


IV. 工事経費

1.工事単価等の設定

 各種工事の単価等を以下のとおり仮定する。

(1)軌間変更装置....1式100億円(伯備線負担分25億円)

 岡山市周辺で、新幹線から在来線への渡り線を建設し、地上部分に軌間変更装置を建設するには、渡り線の長さ等から、50-100億円程度の工事費が必要と思われる。ここでは、最大の100億円を採用する。なお、岡山駅の軌間変更装置は、四国方面(高松、松山、高知)と共通して使用することになるので、建設費用は、平等に負担することとし、4分の1にあたる25億円を伯備線の負担額とする。

(2)車両新造費...1両あたり4億円

 軌間可変台車と振子型列車の両方の機能を持った新型車両ということで、新幹線車両よりも高い1両4億円と仮定して試算する。なお、この新在直通列車は、既存の在来線特急「やくも」と新幹線の置き換えなので、新型車両新造費全部を費用増加額と見るのは、妥当ではない。在来線特急車両の更新費用、新幹線車両の更新費用を差し引いた残りが、新在直通列車による費用増加額となる。在来線特急車両、新幹線車両の更新費用は、それぞれ1両あたり2億円、3億円と仮定する。

(3)一般的高速化工事...1kmあたり3,289万円

 これは、JR北海道の石勝線・根室線高速化(130km/h化)工事の、総工事費100億円、区間(南千歳-釧路)距離304.0kmから求めた1kmあたりの工事単価を採用した。

(4)複線化工事...1kmあたり10億円

 これは、以前から一般的に言われている工事単価を採用した。複線化工事の費用は、用地費の大小、トンネル、橋梁等の多寡により、大きく異なってくるが、今回の複線化区間は、都市部もほとんどない上、トンネルも、長大橋梁も少ないため、この数値で十分建設可能と判断した。

(5)在来高速新線建設...1kmあたり21.2億円

 これは、北越急行ほくほく線の建設工事費(高速化対応工事費含む)の、総工事費1,259.3億円、総延長59.4kmから求めた1kmあたりの工事単価を採用した。

(6)狭軌新幹線建設...1kmあたり47億円

 これは、整備新幹線である北陸新幹線・糸魚川-魚津間の工事費、総工事費1,880億円、40.0kmから求めた1kmあたりの工事単価を採用した。

2.工事費用一覧

 工事単価設定等から求めた、整備手法別の工事費用は以下の通りである。なお、新線の建設距離は、地図上でトレースしたものである。(備中高梁-新見間は、地図がなかったため、在来線-1.4kmとした。)

整備費用一覧表

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       標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

工事キロ数(km)

高速化    204.8 176.6 160.8 160.8 160.8 150.2 134.4 134.4 134.4

新線建設       22.5  37.1  28.4  28.4  47.5  62.1  53.4  53.4

短縮         -5.7  -6.9 -15.6 -15.6  -7.1  -8.3 -17.0 -17.0

複線化    24.0  24.0  24.0  24.0  24.0  24.0  24.0  24.0  24.0

建設工事費(億円)

高速化     67   58   53   53   53   49   44   44   44

新線建設    0  477  787  602 1,335 1,007 1,317 1,132 2,510

複線化    240  240  240  240  240  240  240  240  240

軌間変更装置  25   25   25   25   25   25   25   25   25

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -- - - - -

新型車両製造費

1編成当両数   8   8   8   8   8   8   8   8   8

必要編成数   10   10   10   9   9   9   9   9   9

総製造費(億円)320  320  320  288  288  288  288  288  288

旧型車更新費

在来線数(両)  48   48   48   48   48   48   48   48   48

新幹線数(両)  32   32   32   32   32   32   32   32   32

総更新費(億円)192  -192  -192  -192  -192  -192  -192  -192  -192

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -- - - - -

差引更新費用(億円)

        128  128  128   96   96   96   96   96   96

費用総計(億円)

工事費用   307  775 1,079  895 1,628 1,296 1,601 1,416 2,794

地上設備    25   25   25   25   25   25   25   25   25

車両費用   128  128  128   96   96   96   96   96   96

合計     460  928 1,232 1,016 1,749 1,417 1,722 1,537 2,915

--------------------------------------------------------------------------

3.工事期間

 以上の工事に必要な工事期間であるが、新線建設といっても、長大トンネルもなく、用地買収に手間どる地域も少ないことから、5年程度の期間があればよい。車両の開発が10年後をめどとしていることから、逆算して、以下の年度で工事を行うことになる。なお、工事期間以前に、行政が用地の先行取得を行って、なるべく早く着工できるようにする努力も必要である。

 工事期間:2003年度〜2007年度


V. 時間短縮効果

1.一般高速化の時間短縮効果

 伯備線の全線を在来線の最高速度である130km/hとし、ポイント改良等を行った場合には、区間別所要時間は以下の通りとなる。

区間別所要時間

---------------------------------------------------------------------------

             現    行     |    改 良 後

 区 間    距離  所要時間 評定速度 等価速度|等価速度 所要時間 評定速度

岡山-倉敷   15.9km  0:10  95km/h 112km/h| 112km/h  0:10  95km/h

倉敷-高梁   34.0km  0:23  89km/h  94km/h| 104km/h  0:21  97km/h

高梁-新見   30.4km  0:25  73km/h  76km/h|  91km/h  0:21  87km/h

新見-生山   31.0km  0:27  69km/h  72km/h|  87km/h  0:22  85km/h

生山-根雨   15.9km  0:13  73km/h  80km/h|  90km/h  0:12  80km/h

根雨-米子   31.9km  0:22  87km/h  92km/h| 102km/h  0:20  96km/h

米子-松江   27.9km  0:20  84km/h  89km/h|  99km/h  0:18  93km/h

松江-出雲市  32.7km  0:25  78km/h  82km/h|  92km/h  0:23  85km/h

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

岡山-米子  159.1km  2:00  80km/h     |      1:46  90km/h

岡山-出雲市 219.7km  2:45  80km/h     |      2:27  90km/h

--------------------------------------------------------------------------

試算方法:まず、現行所要時間から、区間別の等価速度(加減速時間を除く時間は、等速運動すると仮定した場合の等速速度。加減速は、1.3km/h/secと仮定。)を求め、等価速度が10km/h(備中高梁-根雨間は、15km/h)増加したとして、改良後の所要時間を試算。

2.新線建設による時間短縮効果

 新線建設による時間短縮効果は以下のとおりである。

新線区間別所要時間

-------------------------------------------------------------------------

         新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

        生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

        新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

最高速度(km/h)  160  160  160  200  160  160  160  200

所要時間(分:秒)

 現行     27:00 40:00 40:00 40:00 52:00 65:00  65:00 65:00

 新線後    10:42 16:11 12:55 11:01 22:27 27:57  24:42 20:40

 短縮時間  -17:42 -23:49 -27:05 -28:59 -29:33 -37:03 -40:18 -44:20

-------------------------------------------------------------------------

試算方法:加減速を1.3km/h/secと仮定して、加減速時以外は、最高速度で運転(速度低下を来すようなポイント、カーブは作らない)するとして試算。新線区間はすべて山間部であるため、最高速度を維持できる路線を選択するのは十分可能。

 新線建設による時間短縮効果は絶大で、最低でも18分弱、最高44分強の時間短縮が実現できる。

3.まとめ

 一般的高速化と、新線建設による高速化を総合した、工事手法別の時間短縮効果は、以下のとおりである。

高速化手法別時間短縮効果

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

最高速度    130  160  160  160  200  160  160  160  200

岡山-米子間・到達時間(時:分)

最速列車   1:43  1:32  1:25  1:22  1:19  1:24  1:17  1:14  1:10

短縮時分   0:14  0:25  0:32  0:35  0:38  0:33  0:40  0:43  0:47

評定速度   92.7 100.0 107.4 105.0 109.0 108.6 117.5 115.2 121.8

最遅列車   1:59  1:48  1:41  1:38  1:27  1:40  1:33  1:30  1:18

米子-新大阪・到達時間(時:分)

最速列車   2:33  2:22  2:15  2:12  2:09  2:14  2:07  2:04  2:00

最遅列車   2:49  2:38  2:31  2:28  2:17  2:30  2:23  2:20  2:08

松江-新大阪・到達時間(時:分)

最速列車   2:51  2:40  2:33  2:30  2:27  2:32  2:25  2:22  2:18

最遅列車   3:07  2:56  2:49  2:46  2:35  2:48  2:41  2:38  2:26

出雲市-新大阪・到達時間(時:分)

最速列車   3:13  3:02  2:55  2:52  2:49  2:54  2:47  2:44  2:40

最遅列車   3:29  3:18  3:11  3:08  2:57  3:10  3:03  3:00  2:48

--------------------------------------------------------------------------

 新見-根雨間を短絡ルートで新線整備すると、所要時間が劇的に改善される。特に狭軌新幹線で整備した場合には、最遅列車でも、新大阪-出雲市間で3時間を切るなど、劇的な時間短縮が実現し、地域に相当のインパクトを与えることが予想される。


VI. 旅客誘発効果

1.旅客誘発効果の試算方法

 一般に、今までにない交通手段を実現した場合の、旅客予想は難しい。そのため、運輸省が整備新幹線で採用している手法は、従前の優等列車利用者数に一律25%上乗せする、といった、おおまかな推計方法を取っている。しかし、この25%には根拠が薄く、線区別の状況を正確には反映できない。また、新在直通化による旅客増加は、山形新幹線、秋田新幹線の2つしかなく、十分なデータが積み重なっていない。そこで、このレポートは、以下の手法で、伯備線高速化による旅客誘発効果を試算する。

(1)地域間の旅客移動は、今後一切増加しないものとする。

(2)伯備線高速化によって、新規需要の掘り起こしはないものとする。

(3)旅客の交通手段の変更は、公共交通機関内のみで起こるものと仮定し、自家用車、営業車両、貸切バス等からの転移は考えないものとする。

(4)公共交通間のシェアは、所要時間が似ている他地区との比較で決める。

 (4)はともかく、(1)、(2)、(3)はかなり控えめな試算をすることを意味している。(1)の地域間の旅客需要は、景気動向にかかわらず、増え続けており、その増加率の設定次第で、新交通機関の旅客需要は、いくらでも多く見積もる事が可能である。しかし、ここでは、そうした恣意的な数値操作を排除するため、旅客増加率ゼロでの試算としている。

 (2)の新規需要の掘り起こしも、今までの新交通手段の実現時には、必ず発生しているものであるが、これも排除する。

 (3)についても、高速公共交通の実現は、少なからず自家用車からの移転も発生するのものであるが、これも排除する。

 従って、このレポートの試算は、「最低限ギリギリのもの」であり、実際には、この数値を上回る旅客誘発効果が発生すると思われる。

2.旅客誘発効果の対象数値

 以上の方法で試算するため、旅客誘発効果の対象は、「現状で、京阪神-米子・松江・出雲市間を公共交通機関で移動している人」に限定される。対象と思われる公共交通機関とその人数は以下の通りである。

 また、他交通機関からの転移ではないが、新在直通化に伴って、新幹線から普通列車に乗り継いでいた大阪・兵庫-倉敷間の鉄道利用者が、この新在直通列車に乗り換えることは、ほぼ確実であるため、これも合わせて試算する。

旅客誘発効果対象

---------------------------------------------

            1995年度年間利用客数

航空(大阪-米子)        8.0万人

航空(大阪-出雲)       19.8万人

高速バス(大阪・神戸-米子)  25.0万人(*1)

高速バス(大阪-松江・出雲)  12.1万人

普通列車乗り換え

(大阪・神戸-倉敷)      102.5万人(*2)

---------------------------------------------

(*1)1995年度は、阪神淡路大震災の影響を受け、神戸-米子線は7月再開、しかも1日2往復(現状は4往復)しかなかったため、それを補正して加算してある。

(*2)道府県間旅客流動調査の大阪・兵庫-岡山間のJR定期外の数値から、岡山県に占める倉敷市の人口比をかけて試算。

3.旅客誘発効果試算

 改善後の所要時間による上記公共交通からの移転旅客数を試算してみる。

(1)航空

 鉄道と航空が競合関係にある他地区の状況から、以下のように試算した。

・鉄道の所要時間(最短時間)が3時間を切る場合には、航空は全廃される。

・3時間以上の場合には、他地区の状況と比較して、13%-20%を想定。

(2)高速バス

 どんなに鉄道が速くなっても、低料金のバスは魅力であり、全廃されることはない。そこで、年間最低限の高速バス利用人員、5.2万人(1日5往復1台あたり14人)を基礎として、所要時間(最長時間)をもとに、線形補間の手法で、高速バスの利用を予測した。

(3)普通列車からの移転

 利便性が格段に違うので、すべての旅客が、新幹線-普通列車乗り継ぎから、この新在直通列車に転移すると仮定した。

旅客誘発効果

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

航空(万人/年)

大阪-米子  2.5  8.0   8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0

大阪-出雲  9.8  12.8  19.8  19.8  19.8  19.8  19.8  19.8  19.8

高速バス(万人/年)

大阪-米子  12.5  14.7  16.0  16.6  18.8  16.2  17.6  18.2  20.6

大阪-出雲  2.1  3.4   4.2  4.6  5.9  4.4  5.2  5.5  7.0

普通列車乗継(万人/年)

大阪-倉敷 102.5 102.5  102.5 102.5 102.5 102.5 102.5 102.5 102.5

  計   129.4 141.4  150.6 151.6 155.0 150.9 153.1 154.1 157.9

--------------------------------------------------------------------------

 以上のように、年間130万人から160万人近い利用者が、この新在直通列車に転移してくる事になる。


VII.収支改善効果

1.増収効果単価

 旅客誘発等によるJRの増収額を求めるため、以下のとおり、単価を設定する。

増収単価

---------------------------------------------

航空(大阪-米子)       9,000円/人

航空(大阪-出雲)      10,000円/人

高速バス(大阪・神戸-米子)  5,500円/人

高速バス(大阪-松江・出雲)  6,500円/人

普通列車乗り換え

(大阪・神戸-倉敷)       850円/人

---------------------------------------------

(注)伯備線区間内の金額ではなく、新幹線区間を通した単価である。

 同じ区間なのに、航空機からの転移客と高速バスからの転移客の単価が極端に違うのは、高速バスの利用者の方が、低価格志向が強いため、安い割引切符でしか利用しないと考えられるからである。これらに対応するため、鉄道にも航空機のような自由な割引切符が発売されることを前提にしている。

2.従来からの旅客への上乗せ料金

 新在直通列車運転によるJRの増収額は、旅客誘導による新規客からだけではない。従来からの旅客からも上乗せ運賃・料金等を徴収できる。ミニ新幹線で取られている「直通料」と、空港線や本四架橋等で取られている「新線通過料」である。他の線区の例や、ライバル交通機関との料金差を考慮して、以下のような単価を設定した。

上乗せ料金(円/人)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

直通料    400  400  400  400  400  400  400  400  400

新線通過料      100  200  200  300  200  300  300  400

---------------------------------------------------------------------------

 なお、先行するミニ新幹線では、直通料を直通利用客だけでなく、新幹線と、新在直通列車に乗り継ぐすべての人から徴収している。つまり、盛岡-福島-山形といった、反対方向から新在直通列車に乗り継ぐ人(以前と乗り換え回数が変わらない)人からも取っている。一見理不尽であるが、以下の理由で正当化されていると思われる。

(1)そんな利用者はほとんどいない。

 盛岡方面から山形方面に行くには、仙台で仙山線に乗り継ぐ方が速いため、利用者は、実際には、ほとんどいない。

(2)乗り換えが少しは便利になっている。

 新在直通列車は、新幹線ホームを発着しているため、従来必要だった新幹線改札を通らずに、短時間で乗り継ぎが可能となった。

 しかし、このレポートで想定している伯備線の新在直通列車は、岡山駅東に軌間変更装置を設置し、岡山駅の「在来線ホーム」に発着する。乗り換えは以前と全く変わらない。また、伯備線から広島・山口・九州方面への乗り継ぎ客は、年間38万人もおり、伯備線の利用者の2割以上にあたる。既存ミニ新幹線の2条件とも満たさないため、広島方面への乗り継ぎ客への直通料上乗せは、公平さを欠く。ここでは、広島方面への乗り継ぎ客へは、直通料を徴収しないこととして試算する。

3.収入増加額

 以上、新在直通列車運転による増収効果をまとめると以下のようになる。

年間増収効果(億円)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

上乗せ料金  4.0  5.8   7.6  7.6  9.3  7.6   9.3  9.3  11.1

航空

大阪-米子  2.3  7.2   7.2  7.2  7.2  7.2   7.2  7.2  7.2

大阪-出雲  9.8  12.8  19.8  19.8  19.8 19.8  19.8  19.8  19.8

高速バス

大阪-米子  6.9  8.1   8.8  9.1  10.3  8.9   9.7  10.0  11.3

大阪-出雲  1.4  2.2   2.8  3.0  3.8  2.8   3.4  3.6  4.5

倉敷直通   8.7  8.7   8.7  8.7  8.7  8.7   8.7  8.7  8.7

  計    33.0  44.8  54.9  55.4  59.2 55.0  58.1  58.7  62.7

--------------------------------------------------------------------------

4.経費削減効果

 実は、伯備線を高速化すると、営業経費が削減される。新線建設により、線路長が短くなり、維持経費等が減るためである。予想される経費削減額は以下のとおり。

年間経費削減額

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

線維持単価(万円/km)

廃止線    -  5,772 5,772 5,772 5,772 5,772 5,772 5,772 5,772

新線     -  5,772 5,772 5,241 5,249 5,772 5,772 5,247 5,256

経費削減額(億円/年)

        0   3.3  4.0  10.5  10.5  4.1  4.8  12.6  12.6

--------------------------------------------------------------------------

(注)新線の維持単価は、短絡線、狭軌新幹線以外は従前と同額。短絡線、狭軌新幹線の維持単価は、鉄道経営研究家の肥後雅彦氏が求めた以下の新幹線の費用関数で計算した。

<キロあたり営業費用>=4,509万円+6.1円×365日×<輸送密度>/10000

      万円/km               人/日


5.収支改善額

 年間増収額と経費削減額を加えた、JRの年間収支改善額は、以下のとおり。

年間収支改善額(億円/年)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

収支改善額  33.0  48.1  58.8  65.9  69.7 59.1  62.9  71.3  75.2

---------------------------------------------------------------------------

 以上のように、新在直通列車運行による伯備線の高速化事業は、JR西日本に年間33億円から75億円もの大幅な増収をもたらすことになる。


VIII. 高速化実施後の営業収支等

1.輸送人員

 高速化実施後の輸送人員は、以下のとおり。

区間別輸送人員(万人/年)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

新大阪-岡山 229.9 241.9  251.1 252.1 255.5 251.4 253.6 254.6 258.4

岡山-倉敷  249.1 261.1  270.3 271.2 274.7 270.6 272.8 273.8 277.6

倉敷-米子  204.0 215.9  225.1 226.1 229.6 225.4 227.7 228.6 232.4

米子-出雲市 107.5 111.8  119.7 120.0 121.3 119.8 120.6 121.0 122.4

必要車両長  6.8両 7.1両  7.3両 7.4両 7.5両 7.4両 7.4両 7.4両 7.5両

---------------------------------------------------------------------------

(注)必要車両長は、15往復で1両あたり56名定員の車両で、年間平均乗車率60%として試算。

2.伯備線の営業収支

 高速化後の伯備線、伯備線・新幹線(JR西日本区間のみ)の営業収支は以下のとおり。

伯備線の営業収支(億円/年)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

伯備線単独

営業収入  72.5  78.0  82.8  83.0  85.2  82.9  84.9  85.1  87.4

営業費用  97.0  93.8  93.1  85.2  85.3  91.6  91.0  83.1  83.2

営業収支  -24.5 -15.8  -10.2  -2.3  -0.1  -8.8  -6.0  1.9  4.2

営業係数   134  120   112  103  100  111  107   98   95

伯備線・新幹線通算(JR西日本区間のみ)

営業収入  144.6 156.4  166.4 167.0 170.8 166.6 169.7 170.3 174.2

営業費用  118.7 115.5  114.8 105.5 105.5 111.9 111.2 103.4 103.4

営業収支  25.9  40.9  51.7  61.5  65.3  54.8  58.5  66.9  70.8

営業係数   82   74   69   63   62   67   66   61   59

--------------------------------------------------------------------------

営業費用に建設費は含まない。車両代金の返済額は含む。

 伯備線の高速化事業で、伯備線の営業収支は劇的に改善する。特に新見-根雨間を短絡新線化や、狭軌新幹線化すれば、伯備線単独でも収支均衡か、黒字になる。


IX. 高速化事業の資金負担計画

1.JRの年間返済可能金額

 JRの年間収支改善額を原資に、高速化事業のJR負担可能額を試算する。まず初めに、収支改善額から、車両費用と軌間変更装置の返済額を控除する。これらは、耐用年数が短い(それぞれ15年と20年)ため、最初に控除する。

年間返済可能額(億円)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

収支改善額  33.0  48.1  58.8  65.9  69.7  59.1  62.9  71.3  75.2

軌間変更装置

返済額(20年) -1.8  -1.8  -1.8  -1.8  -1.8  -1.8  -1.8  -1.8  -1.8

車両費用

返済額(15年) -11.1 -11.1 -11.1  -8.3  -8.3  -8.3  -8.3  -8.3  -8.3

年間返済可能額

       20.2  35.2  46.0  55.8  59.6  49.0  52.8  61.2  65.1

--------------------------------------------------------------------------

(注)金利は年3.5%と仮定。

2.建設費等JR負担可能額

 前項で計算した年間返済可能額を元に、JRが負担可能な建設費用を算定する。算定は、JRのインセンティブ有、インセンティブ無の両方で試算する。インセンティブとは、JRの増収分のすべてを返済に回してしまうと、JRの経営意欲が衰えるので、返済可能額の一部は儲けとして、JRが留保するものである。整備新幹線の例を用いて、インセンティブは、返済可能額の20%とする。

建設費等JR負担可能額(億円)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

インセンティブ額

        4.0  7.0  9.2  11.2  11.9  9.8  10.6  12.2  13.0

建設費等JR負担可能額

インセン無  371  647  845 1,027 1,096  902  971 1,125 1,198

インセン有  297  518  676  821  877  722  777  900  958

--------------------------------------------------------------------------

(注)建設費を30年返済するものとして試算。年利3.5%。

3.建設費等差引公費負担額

 実際にかかる建設費から、JRの負担額を引いた残りは、公費等で負担しなければならない。その額は、以下の通りである。

建設費等差引公費負担額(億円)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

インセンティブ無

負担額    -63  128  234  -132  531  394  630  291 1,596

公費負担割合 -14%  14%  19%  -13%  30%  28%  37%  19%  55%

毎年返済額   -3   7   13   -7   29   21   34   16   87

インセンティブ有

負担額     11  257  403   74  751  575  824  516 1,836

公費負担割合  2%  28%  33%   7%  43%  41%  48%  34%  63%

毎年返済額   1   14   22   4   41   31   45   28  100

--------------------------------------------------------------------------

(注)毎年返済額は、負担額を自治体等が一括支払い出来ない場合に、30年返済で分割払いした場合の1年間の返済額。年利3.5%と仮定。

 インセンティブ無の場合に、もっとも採算性が良いのは、「新見-根雨短絡新線」方式であり、公費負担は一切必要なく、JRが全額負担しても毎年7億円の黒字となる。公費負担が必要ないのは、他に「一般的高速化工事のみ」のインセンィブ無の場合だけである。


X. まとめ

1.最適の整備方法

 以上、伯備線高速化事業の採算性を「もっとも堅い」予測値で試算してみたところ、それでも、以下の2方式について、十分な採算性がある(公費負担ゼロ)ことが判明した。

(1)一般的高速化工事のみ

(2)新見-根雨短絡新線建設

 (1)と(2)を比較すれば、所要時間が20分も違うので、(2)が断然有利である。常識的には、(2)の方式を採用するところであるが、今一つ候補に加えたい方式がある。それは、

(3)新見-根雨狭軌新幹線

 方式である。というのは、(2)の在来規格の短絡新線建設方式では、これ以上のスピードアップが不可能なのに対して、狭軌新幹線は、区間を延長して行けば、いつかは「フル規格新幹線」にすることができるからある。

 従って、例え(2)の方式で整備するにしても、「用地買収は、フル規格基準で行い」、「トンネル等もフル規格基準で掘る」なりの「将来への可能性」を残した上での整備が望ましい。

 以上、総合すると、「新見-根雨短絡新線」、「新見-根雨狭軌新幹線」のどちらかが望ましく、後は「いくら公費負担できるか」でどちらかで決めれば良い。

2.公費負担は妥当か

(1)地域間流動の増加

 このレポートの試算は、堅く試算しているため、公共交通からの転移のみを想定し、自動車からの転移や、需要喚起を一切考慮していない。この前提ならば、伯備線を高速化することの地域のメリットは、「時間短縮による、滞在時間が増える」だけである。従って、地域が公的負担を行うための前提である「地域に与える波及効果が大きい」という条件をクリアしているとは言い難い。

 しかし、実際にミニ新幹線などの導入により、新在直通と時間短縮を果たした地域には、少なからず波及効果が発生し、旅客流動自体が増えている。伯備線の高速化が実現した暁には、ここで試算した公共交通からの移転以外にも、必ずや旅客が増加し、波及効果が発生すると思われる。公費負担は、十分に正当化される。

(2)公共事業としてみた場合の採算性

 また、この事業を単純に公共事業として見た場合の採算性を検証してみよう。例えば、「新見-根雨狭軌新幹線」をインセンティブ有の場合で整備した場合ですら、総事業費1,749億円のうち、998億円(実に57%)は、毎年のJRからの貸し付け料で返済可能となる。これは、数ある公共事業の中でも、トップクラスの採算性である。

 例えば、高速道路の米子自動車道の1996年度の収支は、営業収入44億円、営業費用86億円と、総建設費の51%しか返済できていない。(日本道路公団ハイウエイニュース1997年10月号)。今後続々と作られる「赤字ローカル高速道路」は、米子自動車道以下の採算性しか有していないと見られ、道路公団が「第二の国鉄」と化す危惧も拭い切れない。そうして見れば、伯備線の高速化事業は、赤字ローカル高速道路の整備などより、はるかに優先すべき、採算性の高い公共事業と言える。

3.国費負担の可能性

 これだけ採算性もあって、地域間交流に役立つ事業ならば、国が補助をする名目は十分たつ。しかし、輸送面でも重要性に比して鉄道への国庫補助は、他の交通(道路、航空、港湾)に比らべても格段に少ない。現在の国の補助制度で、今回の事業に適用できそうな制度は、以下の二つしかない。

(1)幹線鉄道活性化事業

 幹線鉄道の整備に対して、国が総事業費の20%、地方自治体が20%の補助を行う。(運輸省管轄公共事業関係費)

(2)主要幹線鉄道整備費無利子貸付事業

 幹線鉄道の整備に対して、国が総事業費の50%、地方自治体が50%の無利子貸付を行う。貸付から5年間据え置き、その後10年間で均等返済する。(運輸設備整備事業団が、基金を基に日本開発銀行を通じて行う。)

 しかし、まず(2)の無利子貸付については、1997年度、1998年度とも新規事業採択はなされておらず、事実上終了してしまった事業である。この制度は、JR本州3社への新幹線売却益を流用して行っている事業であるが、「整備新幹線の建設が長引いていること」、「同様の制度で賄われている常磐新線と営団地下鉄南北線の工事費が膨れ上がり、他の事業を圧迫していること」などから、今後一切の新規採択は行われる可能性はない。従って、伯備線の高速化事業には適用できない。

 次に、(1)の補助制度であるが、この制度の予算額は、1996年度で11億円、1997年度に至っては、たったの4億円しかない。同様の制度のもとで運営されている地下鉄やニュータウン新線(いずれも大都市圏限定)の整備費を合わせても715億円しかない。更に悪いことに、旧国鉄債務返済のための運輸省関連予算の削減のあおりを受けて、98年度予算では618億円(14%減)となってしまった。

 こうした、少ない予算枠の中でも、98年度も「京都市営地下鉄東西線の延長:712億円」と「京阪奈新線:1000億円」が新規採択されており、99年度以降も大阪市営地下鉄の延長や仙台空港アクセス線などが新規事業として補助の獲得をめざしている。こうした厳しい予算環境を考えると、伯備線高速化事業が採択される可能性は、当面難しいといわざるを得ない。

 ただし、実際に伯備線が複線化工事や新線建設工事を行うのは、5年後でも十分に間に合う。早急に計画を煮詰め、他の自治体とともに、鉄道関係公共事業枠の大幅アップを国に強く働きかければ、採択される可能性も十分にある。

 伯備線高速化事業が国の幹線鉄道活性化事業に採択された場合には、地元自治体の負担額は、以下のように変化する。

国の補助を加味した差引自治体負担額(億円)

---------------------------------------------------------------------------

      標準  新見- 新見生 新見根 新見根 高梁- 高梁生 高梁根 高梁根

       工事  生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌 生山  山根雨 雨短絡 雨狭軌

       のみ  新線  新線  新線  新幹線 新線  新線  新線  新幹線

国庫補助額   66  160  220  183  330  264  325  288  563

インセンティブ無

負担額    -129  -32   14  -315  201  130  305   3 1,033

自治体負担  -28%  -3%   1%  -31%  12%   9%  18%   0%  35%

毎年返済額   -7   -2   1  -17   11   7   17   0   56

インセンティブ有

負担額    -55   97  183  -109  421  311  499  228 1,273

自治体負担  -12%  10%  15%  -11%  24%  22%  29%  15%  44%

毎年返済額   -3   5   10   -6   23   17   27   12   69

--------------------------------------------------------------------------

(注)試算額の多寡に限らず、自治体負担は、最低限国庫補助額と同額必要。

 国庫補助があれば、¢備中高梁-根雨間短絡新線建設」方式ですら、採算が取れることになる。

4.具体的投資方法

 さて、一部公費負担を含むこれらの投資を行うには、二つの方法がある。

(1)JR西日本に補助金を出す

 一番単純な方法である。JRへの地方自治体の補助は、50%を上限とすることになっているが、今回の整備方法では、「備中高梁-根雨狭軌新幹線」方式以外は、公費負担割合は50%以下であり、問題はない。

(2)第三セクター会社を設立し、JRに貸し付ける

 新線部分等を第三セクター会社で整備し、JRに貸し付けて資金を回収する方法である。この方法の利点としては、JR西日本にとっては、巨額の資金調達が必要なく、毎年のリース料を払うだけで良いこと。自治体にとっては、JRの暴走(高まった競争力を背景に、略奪的料金アップをする、など)を、地上設備を持つことによって、コントロールできること。また、予想以上に旅客が増えて、不当にJRが儲けすぎた場合なども、貸付料のアップでそれを吸収でき、公費負担を減少させることができること、などである。

 更に、事業資金の借り入れについても、国自治体の補助のもとでJRが残り資金を借り入れる場合には、JRの格付に従った金利でしか調達できないが、この事業のために専用に作った第三セクター会社ならば、この事業自体の格付けで借り入れができるので、場合によっては、有利な金利で調達できる。

 設備を第三セクターが保有して、それをJRへ貸し付ける方法にも、「資産の賃貸」による方法と「三セク自ら鉄道事業を営み、JRがその鉄道に乗り入れる方式」の二通りがある。後者の方が、JRに対して対等の立場で交渉できるメリットはあるが、運賃が通算できないなど、利用者のデメリットも伴う。特段の理由がなければ、前者の方が単純で分かりやすいと思われる。

5.試算の精度

 今回の試算は、なるべく固い試算を行ったつもりであるが、数値精度の問題、社会環境の関係などで、試算がずれることも考えられる。考えられる要因は、以下のとおりである。

(1)試算よりも採算性が良くなる場合

(a)利用者推計が少ない

 利用者推計に用いたデータは、1995年度であり、前年度に起こった阪神淡路大震災の影響がまだまだ残る時期であり、過少になっている可能性がある。

(b)客単価の仮定が低い

 営業収入の試算のため、正規運賃に割引率を想定して試算したが、それが低過ぎる可能性がある。(京阪神、岡山、広島方面は平均3割引と仮定)

(c)旅客需要全体が伸びる

 試算では、1995年時点で旅客需要は変化しないという仮定で行っている。しかし、過去の例を見ても、旅客需要全体は伸びて続けているため、伯備線高速化の完成時点(10年後を想定)には、現在より数%から10数%旅客需要が伸びている可能性がある。

(d)誘発効果がでる

 この試算は、公共交通からの転移のみを推定し、他の交通機関(自家用車、観光バス等)からの移転は想定していない。また、便利になったため、いままで移動していなかった人が移動を思い立つ、という事態も無視している。しかし、実際には、高速交通機関の完成による、これら旅客誘発効果は、必ず発生するものであり、誘発効果による収入の上積みがある可能性がある。

(e)金利が3.5%よりも下がる

(2)試算よりも採算性が悪化する場合

(a)旅客需要が減退する

 極端な景気の冷え込みや、山陰地区もしくは京阪神地区の特殊事情により、旅客需要が減る可能性がある。

(b)工事単価が上昇する

 工事単価は、なるべく高めに見積もったつもりであるが、経済事情や特殊要因で、増大する可能性がある。

(c)車両性能が悪く、高速走行ができない

 今回の試算は、導入する振り子式軌間可変列車として、最高速度275km/h(新幹線上)、200km/h(狭軌新幹線上)、160km/h(在来高速線上)で、曲線通過速度も「現行やくも」並というスペックを想定しているが、技術上の問題で、これらがクリアできない可能性がある。その際には、競争力が落ちるため採算も悪化する。

(d)金利が3.5%よりも上がる

6.採算性が悪化した場合の対処方法

 採算性が悪化した場合には、工事を縮小することによって、総事業費を抑えて、採算性を維持する必要がある。その場合、時間短縮効果が少なく、旅客誘発効果が少ない「複線化」区間を減らすことによって、対処するのが望ましい。

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