ミニ新幹線は使えるか(フリーゲージトレインの勧め)
By HIT(1997.5.6)


目次

山陰線高速化にミニ新幹線???
1.ミニ新幹線とは
2.ミニ新幹線のデメリット
3.ミニ新幹線が有効な区間の条件
4.高速化にミニ新幹線は使えるか?
5.ミニ新幹線以降の技術動向(フリーゲージトレイン)
6.山陰地区の鉄道高速化は?

山陰線高速化にミニ新幹線???

 5/2付けの日本海新聞に1面トップに、「日本海縦貫高規格鉄道整備促進議員連盟」(仮称)なる国会議員の集まりが持たれる事になったという記事が出ていました。

 その趣旨は、大いに結構だと思いますが、日本海新聞の記事見出で、「日本海にミニ新幹線網」としたり、記事中で「ミニ新幹線方式の整備が有望」とあるのは、どう考えても、新聞社の勉強不足と誤解に基づく勇み足記事だと思います。(パソコン通信で聞いた他地域の新聞には、そんな表現はどこにもないのに。)

 さらに、鳥取県選出の代議士の談話でも「ミニ新幹線規格で在来線を整備して欲しい」などと述べている事から、政治家も、大半の人は誤解をしているようです。根は深そうです。

 世間では、「在来線規格と新幹線規格の間に、ミニ新幹線規格という規格があって、ミニ新幹線にすれば新幹線ほどではないが、在来線よりは高速化する」と思っている人が多いようですが、これは全くの間違いです。また、ミニ新幹線は、制約も多く、威力を発揮できる地域は限られています。「在来線高速化の万能の切り札」なんかでは全然ありません。

 では、以下で、ミニ新幹線が使えない理由を順を追って説明しましょう。

1.ミニ新幹線とは

 ミニ新幹線とは、「新幹線と在来線を直通する列車を運行するシステム又はその直通列車」を指します。後述しますが、『新幹線と直通して初めてメリットの出てくるシステム』です。鳥取-米子間をミニ新幹線化したところで、何のメリットもありません。

 在来線と新幹線では、車両の大きさ等いろいろ違い、そのままでは直通運転できませんが、最大の問題は、線路幅が違う事です。そのため、ミニ新幹線運行地域では、在来線の線路幅(軌間。在来線は狭軌という。)を広げて、新幹線と同じ幅(標準軌)にしてしまうのです。

 ミニ新幹線の地上側の設備変更は、たったこれだけです。(列車自動停止装置も整備しないとだめですけど。)つまりは、「線路幅が広がった在来線」でしかありません。

2.ミニ新幹線のデメリット

 ミニ新幹線は、新幹線在来線の直通(新在直通という)運転に威力を発揮しますが、デメリットが多くあります。「工事中の運休」、「速くない」、「ネットワークの破壊」などが挙げられます。

(2-1)ミニ新幹線は工事中運休する

 ミニ新幹線は、車両を除くと、地上設備の改良は、線路幅を広げるだけです。しかし、ミニ新幹線区間すべての軌間を広げるのは、膨大な金額と時間がかかります。特に問題になるのが、「線路幅変更工事中は、鉄道が使えない」という点です。当然といえば当然ですが、利用者の多い路線では、かなり困った事になります。

 秋田新幹線(田沢湖線)では、この工事は1年近くかかりました。田沢湖線という閑散路線ですから、何とかなりましたが、山陰線鳥取-米子間など、1年間すべての列車が動かないとしたら...。

(2-2)ミニ新幹線は速くない

 世間の誤解の最大のものがこれです。ミニ新幹線は、全然速くありません。なぜなら、1.で述べたように、ミニ新幹線規格の在来線というのは、単に、線路幅が広いだけの違いしかないので、最高速度などは、まったく同一なのです。

 なるほど、新在直通する「ミニ新幹線車両(特急)」は、時速275km/hなど、新幹線と同じスピードが出せますが、これは新幹線軌道上の事であり、在来軌道上であれば、従来と変わらない130km/hが上限です。ちなみにこのスピードは、「スーパーはくと」の最高速度と同じです。

 踏み切りもあれば、線路近くまで人が近づける在来線では、(車両がいくら275km/h出せても)安全のため130km/hまでしか出せません。テストコースなら200km/h出せる高性能スポーツカーでも、一般道では60km/hしかだせないのと同じ理屈です。

 ですから、在来線をミニ新幹線化しても、スピードは全く上がりません。それどころか、最近の在来線高速化のエースである「振り子機能」付き特急に比べると、カーブ通過速度の違いから、遅くなる可能性の方が高いです。

(2-3)ミニ新幹線は、ネットワークを破壊する

 ミニ新幹線化の最大の問題点は、「既存のネットワークを破壊する」という点です。

 何しろ、線路幅が変わってしまうのですから、それまで直通していた列車は、すべて、ミニ新幹線区間とそれ以外の区間で、細分されてしまいます。通勤、通学に便利な線区をまたがった列車や、本数は少ないけれど、そこそこの需要のある陰陽連絡特急など、すべて廃止されてしまいます。

 これらは、乗り換えの手間さえいとわなければ何とかなりますが、中でも一番困るのは、寝台列車と貨物列車です。これらは、途中で乗り換えたり、積み替えたりする事ができない性質のものですから、事態は深刻です。ミニ新幹線区間からは、これらの列車は締め出されてしまいます。

3.ミニ新幹線が有効な区間の条件

 2.で見たように、ミニ新幹線は、巨額の建設費をのぞいてもデメリットが多い手法です。これらのデメリットがあまり気にならずに、唯一のメリットである「新幹線との直通」を生かす区間は、以下の条件を満たす必要があります。

(3-1)優等列車の利用が新幹線乗り継ぎ中心であること

 唯一のメリットが「新幹線との乗り継ぎがなくなる」ことですから、当然ですね。「乗り換えなし」の効果は絶大で、時間に置き換えると、40分程度時間短縮したのと同じ効果があるようです。もちろん、現状で、新幹線乗り継ぎ客がほとんどいないような線区は、ミニ新幹線化しても、何のメリットもありません。

(3-2)工事中、完成後の代替ルートが確保できること

 ネットワークを破壊するミニ新幹線化のデメリットを解消するには、ネットワークの代替ルート確保が必要不可欠です。夜行列車や貨物列車の代替ルートの確保は結構深刻で、相当のう回ルートの恵まれた地域しかできないと思います。

 現在ミニ新幹線が走っている山形新幹線(奥羽本線)、秋田新幹線(田沢湖線)は、当然ながら、どちらも条件を満たしています。どちらも普通列車の利用が閑散な線区で、工事中の運休は、バス代替で十分でしたし、工事中の優等列車の代替ルート(山形=仙山線、秋田=北上線)も確保できました。また、工事終了後、貨物及び夜行列車は、他線区経由となり、当該区間からはなくなりました。

 これら条件を満たす線区は、全国的にもそう多くありません。長期運休するという条件から、「幹線」への適用はまず無理で、山形、秋田両新幹線のように、「新幹線からひげのように分岐した枝線」にしか適用できない事がおわかりでしょう。日本海新聞の見出しのように「ミニ新幹線網」なんて、出来るハズもないのです。

4.高速化にミニ新幹線は使えるか?

 以上から見て分かるように、山陰地域で、ミニ新幹線が使えそうな区間は、伯備線だけです。伯備線にしたとことで、岡山-米子-出雲市間をミニ新幹線化すると、鳥取-松江とか、松江-浜田といった直通列車が運転出来なくなりますし、貨物、寝台特急出雲も廃止とあるなど、デメリットも多く、おいそれとは踏みきれません。

 山陰線、福知山線、智頭急行をミニ新幹線化しよう、なんて考えは、全くの無駄以外何者でもありません。大半の需要が、終端の京阪神地域であるこれらの線区は、時間短縮もないミニ新幹線方式では、メリットがありません。

 また、東京方面への乗り継ぎ客の利便向上としても、東海道新幹線東京-新大阪間は、現在でもダイヤが満杯状態で、品川新駅を整備しても早晩にまたパンクしそうなほどですから、小さな車両のミニ新幹線が乗り入れる余地はありません。

 以上、山陰の例を見ましたが、日本海縦貫線(青森-大阪)についても、ミニ新幹線が有効な線区はほとんどありません。

5.ミニ新幹線以降の技術動向(フリーゲージトレイン)

 以上、ミニ新幹線は、かなり限定された局面でしか威力を発揮できない手法なのですが、これにも技術革新の波が押し寄せていて、ミニ新幹線手法も古くなりつつあります。

 以前にも紹介した「軌間可変列車」(フリーゲージトレイン)です。これは、在来線の線路幅を変えるのではなく、車両の方で、自動的に車輪幅を変えるという手法で、新幹線と在来線の接続点に、『軌間変更装置』を設けるだけで、新幹線と在来線の直通が可能になります。

 線路幅を変えないで、現状の設備がそのまま使えるこの手法は、ミニ新幹線の抱えるデメリットをほとんど消してしまいます。(速くないのは、同じですけどね。)現在、鉄道技術研究所で実用化試験を実施中で、早ければ4,5年後に実用化されそうです。JR西日本でも、10年後をめどに、車両開発に取り組んでいるようです。

 実用化時期に開きがあるのは、JR西日本の場合には、「軌間変更車両+振り子機能」という、かなり難しい(重量的に重くなる)技術的ハードルをクリアする必要があるからだと思います。というのが、JR西日本が新在直通列車を走らせる線区は、伯備線しか考えられませんが、伯備線の場合、振り子機能付きでないと、現状よりスピードダウンしてしまうからです。

 先ごろ、山形新幹線の新庄延長が本決まりになりました。元々、ミニ新幹線に適した地区が少ない上に、軌間可変列車の実用化のメドが立てば、この新庄新幹線が、最後の「ミニ新幹線」となる可能性は大です。

6.山陰地区の鉄道高速化は?

 では、ミニ新幹線手法が使えないとして、山陰線の鉄道高速化にはどんな手法を用いればよいのでしょうか。別に難しい事ではありません。今ま で、および現在も行っている各種の高速化事業を適材適所に組み合わせて行えばよいのです。主な手法は、以下の通りです。

(6-1)振り子列車の投入

 山陰線のような開通の古い線区は、カーブが多い上に急カーブも多く、スピードアップのネックになっています。振り子機能を持った列車で、カーブ通過速度をアップするのが、一番のスピードアップ手段です。

(6-2)軌道強化

 高速化工事の王道です。木のまくら木をコンクリート木にしたり、バラストの厚みを厚くしたり、カーブの傾斜を増したりします。これで通過速度が増します。

(6-3)ポイントの改善

 駅構内のポイントを高速に通過できるように、直線化したり、カーブをゆるやかにします。

(6-4)部分新線の開通

 あまりにもカーブが多かったり、遠回りをしている区間については、部分的に新線を作って、短絡させる手もあります。智頭急行は、山陰線の部分新線と言えなくもありません。

(6-5)軌間可変列車(フリーゲージトレイン)の投入

 新幹線との乗り継ぎが主の線区には、軌間可変列車を投入して、乗り継ぎ手間を省きます。

 高速化の手法の中に「電化」がないのは以外と思われるかも知れませんが、現状では電車と気動車(ディーゼルカー)の能力差は全くなく、単純に運転本数からくるコスト面の違い(運転本数が多いと電車が有利。少ないと気動車が有利。)だけですから、高速化とは直接関係ありません。電車の「やくも」より気動車の「スーパーはくと」の方が速い事からもそれは分かると思います。

 以上の手法を、場面と費用対効果を考えながら、適当に組み合わせて実施すれば、最高速度130km/h、平均速度90km/h程度の高速化は、結構安価で実施できます。大阪-鳥取 2時間10分、新大阪-米子 2時間30分(新在直通特急)程度は夢でも何でもありません。金額も無駄な道路、港湾整備費のほんの一部をまわすだけで実現できるほどの金額です。

 こういったところにこそ、国会議員の方々の力を発揮して、硬直化した予算配分を打破し、真に地域のためになるものの整備に力を注いで欲しいものです。


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