米子空港滑走路延長に伴う境線の地下化問題by HIT

最終更新:[1999.9.26]

境線地下化問題とは

 米子空港の滑走路を現在の2,000mから2,500mに延長する計画が県主導であります。これは、運輸省の第七次空港整備七か年計画にも検討中として盛り込まています。前の滑走路延長時(1,500mから2,000m)には、中海を埋め立てて延長しましたが、漁業補償に手間取り、後から着工した鳥取、出雲両空港にジェット化で先を越されてしまったという、苦い思い出があります。そのせいではない(これ以上中海を埋め立てると、中海の水の流れを阻害してしまうのが一番の理由だと思います。)でしょうが、今回の滑走路延長は、陸側に500m延長する計画です。

 しかし、500m滑走路を陸側に延長すると、JR境線と県道米子境港線(通称内浜産業道路)をどうにかしなければばりません。手段は、う回か地下化のどちらかです。

 鉄道の場合、急カーブが取れませんので、JR境線の地下化は必然です。現在、問題になっているのは、地下化する際の、地下化ルート問題です。


A案(直進案)とB案(空港直近案)

現在明らかになっている、JR境線の地下化ルート案は、以下の2つです。(参考:1998.12.9付け山陰中央新報、1998.12.9,1999.1.29付け日本海新聞)
 A案B案
ルート概要現在の境線ルートのまま地下化する空港ターミナルビルに極力近づけるルートで地下化する
 どちらも、現大篠津駅を廃止し、空港ビルの近くに新空港駅を設ける
ルート詳細現行境線に沿って地中化して、新空港駅は現在の境線をまたぐ県道外浜米子空港線跨線橋付近大篠津駅の南側の県道米子境線(通称:内浜産業道路)が直角に曲がる交差点よりもさらに南側からルートを西(空港側)にとり、空港エプロンの直近を通って中浜駅付近で現行ルートに合流。新空港駅は、現貨物ターミナルの隣付近。
空港ビルから新空港駅までの距離220m85m
空港ビルと新空港駅の連絡方法連絡橋に動く歩道を整備特段に必要なし
工事区間の長さ1,950m2,400m
地下化部分の長さ800m1,300m
新規用地取得面積1,200平方メートルA案の約10倍
空港用地の使用なしあり。JRが地上権を設定する必要あり。
JRの現有用地の利用方法ほとんどが地下化後も、JR用地として利用可能鉄道用地としては不要となり、工事後の対応が難しい
事業費(概算)70億円80億-85億円
工事費への国の公共補償全額対象A案分のみ(差額の10-15億円は補償対象外のため、工事費、維持費は空港側が負担」というJRとの約束を守れない。と鳥取県は主張している。)
地中化部分の固定資産税政令の改正で非課税化が可能非課税は難しい
推している主体とその理由鳥取県(事業費が安い)JR(空港利用者の利便)
 なお、JRは、地下化の協議開始(97年9月)に際して以下の条件を出している。
・地中化に伴う工事費や固定資産税、維持管理費は空港が負担する
・不用となる現在の境線用地は空港(運輸省or鳥取県)が取得する
 やっと、境線地下化計画の概要が明らかになりました。B案は以前から私が想定していたルートそのものです。誰が考えても、そうなるのでしょう。ドアツードアが当たり前の田舎で、220mの距離(不動産広告なら徒歩3分?)といえば、これはもう「空港駅」とは呼べません。利便性の向上がほとんどないA案では、空港にとっても不利だと思います。

固定資産税の非課税問題

 例の比較表ですが、A案なら固定資産税が非課税になりそうなのに、B案は難しい、というのが、ちょっと変です。空港の地下を通る鉄道が非課税になる法令というと、以下の条文です。(飛行場と鉄道事業者関係だけ抜粋しています。)

地方税法第348条(固定資産税の非課税)第2項2の5項

「鉄道事業者が政令で定める公共の用に供する飛行場の区域及びその周辺の区域のうち、政令で定める区域において、直接鉄道事業の用に供するトンネル」

政令で定める飛行場:地方税法施行令第49条の5第2項

「新東京国際空港及び新千歳空港とする。」

政令で定める区域:地方税法施行令第49条の5第3項

「航空法第40条の規定により告示された進入表面、転移表面または水平表面の投影面の区域とする。」

 つまり、地下化した境線のトンネル部分を非課税にしようと思ったら、政令(地方税法施行令第49条の5第2項)を改正して米子空港(美保飛行場)を付け加えるしかありませんが、そうなれば、A案であっても、B案であっても非課税となります。「A案なら非課税だがB案なら課税」というのは、ちょっと理解できません。

 A案とB案の違いといえば、「A案は公共移転。B案は空港アクセス鉄道」という違いだけです。先行する2空港は、どちらも「空港アクセス鉄道」であり、公共移転ではありません。そう考えると、ますます「B案ならダメだけれどA案なら非課税」という論に説得力がありません。

 それでも、B案を非課税にしない、と中央官庁の職員が言っているとしたら、それは多分「空港アクセス鉄道の整備はA案で十分。B案はオーバースペック。認められない。」という理屈位でしょう。

 なるほど、大都会に住む中央官庁の職員にとっては、通勤で200m程度の鉄道乗り換えは、日常茶飯事。200mの距離の駅は十分「空港アクセス駅」である、と言うかも知れません。しかし、ドア・ツー・ドアに慣れた地方在住者にとってみれば、とてもじゃないですが、これでは利用する気になれません。「絶対に100m以下にしないと、空港アクセスにならないんだ。」という事をデータ等を持って、中央官庁の人に、良く理解してもらうようにすれば、おのずと道は開ける気がするのですが。


A案は本当に安いか

 県がA案を推す最大の理由(というか唯一の理由)は、A案の方がB案よりも安く整備できるという点です。しかし、本当にA案は、安くあがるのでしょうか。

 A案の場合には、空港ターミナルと新空港駅が遠いことから、鳥取県も、動く歩道等の整備を考えているようですが、でも、220メートルも動く歩道付きの連絡橋を整備するとなると、工事費も数億はかかるでしょうし、動力の必要な動く歩道の運行経費もバカになりません。下手をすると、B案よりもトータル・コストがかかるかも知れません。そこへいくと、B案ならば、駅と空港ターミナルの距離が短いので、連絡橋の整備は必要なく(連絡通路に屋根を付ける位かな)、維持費もかかりません。

 このように、トータルコストでは、それほどのメリットのないA案になぜ鳥取県がこだわるのか、良く理解できませんが、考えられることは、「すべてを公共補償の範囲内に収めてしまい、国の補助のない単独の負担は極力したくない」という、役所らしい理屈位でしょうか。しかし、B案であっても、国の補助が付く可能性はあります。最近、空港アクセス鉄道整備に対しても、運輸省の補助が付くようになったからです。B案はまぎれもなく、空港アクセス鉄道ですから、国の補助は、十分に可能です。

 ただし、この空港アクセス鉄道に対する補助は、鉄道事業者(この場合は、JR)も負担するスキームなので、JRが応分の負担を認めないと、実現しませんが...。

 あと、考えられるのは、「空港ターミナルと空港駅間の連絡橋の整備に、多額の補助金が見込まれる」と鳥取県が見ているのかも知れません。こうした事業への補助金の有無は、不勉強なもので、私は知りませんが、貧乏所帯の運輸省と違って、潤沢な予算を持つ建設省になら、かなり有利な補助事業が転がっていてもおかしくありません。もし、そうならば、A案は、それなりに資金面での有利さがあることになります。

 ただし、いくら資金面で有利であったとしても、利用者にとって、便利がいいのは、B案に違いありません。たった15億円をけちって、将来に禍根を残すことがないように、悔いのない選択をして欲しいものです。


JRの資金負担問題

 JRは、地下化に伴う工事費、固定資産税、維持費等は、全部向こう持ちなら地下化賛成、と虫のいい事を言っていますが、逆に、県側から「B案では、JR側にもメリットが生まれ、JRの費用負担が生じる可能性が高く、JRが示した条件をクリアできない」(参考:1999.12.9日本海新聞)とA案への譲歩を迫られています。

 乗客が増えるのなら、JRにもメリットがある訳ですから、全く費用負担に応じないというのは、理屈に合いません。「受益の範囲内で負担に応じる」という姿勢に転化しないと、利用者にも、JRにも不便なA案で決まってしまい、後々まで後悔しそうです。

 以上、記事を分析すると、補償費や固定資産税の非課税など、県はいろいろと難癖(?)をつけて、工事費の安いA案に収めようとする姿勢が見え見えです。JR側も、一切の費用負担なしに、あわよくば、空港アクセス客を取り込もうという虫のいい考えが見え見えです。

 利用者に一番便利が良く、空港利用の促進にも効果があるのは、B案です。差額の15億円をどう負担するのか、という問題はありますが、JRが受益の範囲内で負担(利用者も応分の負担)した上で、残りは自治体と国が負担するしか方法はないように思えます。

 たった15億円で、空港アクセス鉄道が手に入り、しかも運行経費はタダ同然(何といっても中間駅なのですから)という絶好の条件があるのですから、ぜひともB案で整備し、空港利用および鉄道利用の促進を図って欲しいものです。

 このままでは、利用者の利便性を無視した結論になりそうですので、両者とも頭を冷やして、いい案をまとめてもらいたいものです。


空港駅利用者推計とJRの採算性推計

 この境線新駅のターゲットは、第一義的には、現在空港連絡バスを使っている人や、空港駐車場(有料)を使っている「現在すでに航空機を利用している人」でしょう。

 米子駅-米子空港駅間の鉄道運賃は、(地下化による割り増し運賃がなければ)230円です。それに対して、空港連絡バスは570円、空港駐車場は1泊600円です。米子発で1泊2日の往復利用するとすれば、鉄道は、連絡バスより680円、空港駐車場よりも740円安いです。

 ちょうどいい時間に列車があるのか、という問題も確かにありますが、境線は、ローカル線には珍しくほぼ38分間隔の規格ダイヤ。使えないこともありません。これなら、「連絡バスをやめて鉄道で行ってみよう」とか、「駐車場料払う位なら鉄道でいこう」という人があってもおかしくありません。(JR境線の某駅まで徒歩2分の私なら絶対に鉄道で行きます。)

 現状の空港バス利用者は、1999年3月に実施したアンケート調査結果によると、空港利用者の約20%。これに、1998年度利用実績の年間47万人をかけると、年間の空港バス利用者は、約9.4万人となります。

 このうちの約半数(これは、かなり強気の予想です)の年間4.7万人が鉄道に移転するとして、JRの収入増加額は、年間約1,000万円です。空港新駅利用者に(どうやって実現させるかは別にして)追加料金として100円程度負担してもらったにしても、年間1,500万円止まりです。利用者が増えて倍増したとしても、年間2,000-3,000万円にしかなりません。年間6億円(HITの推計による)の赤字を出す境線にとっては、増収とはいえ、微々たる収入増加にすぎません。

 JRにとってみれば、大赤字の境線の収入増加額は、境線の赤字を少しでも減らすために、赤字の穴埋めに使いたいのは、やまやまでしょう。しかし、それでは、B案への理解が得られないので、JRが収入増加額を地下化工事費に充当した場合を試算してみましょう。

 上で計算した収入増加額を全額JRが吐き出して(絶対に有り得ませんが)10年分を前払いすると、1.0億円-1.5億円。倍増シナリオでも、2.0億円から3.0億円にしかなりません。空港新駅をターミナルビルに寄せることによる増加経費(10-15億円)の1割から2割程度にしかなりません。

 ですから、この空港新駅開業の問題は、空港アクセス鉄道を鉄道の採算性の基づいて実現されるものでは更々なく(全く採算はとれない。)、あくまでも国、県が「空港の機能の一つとして整備することが妥当かどうか」という議論に落ち着きます。空港の付帯設備としては、使いもしない大きなターミナルビルを建設したり、広大な駐車場を無料で整備したり、と10億円単位の(半ば無駄な)投資が行われたりしていますが、それらに比べて、「境線をちょっと曲げて空港新駅」を作るのに、プラス10-15億円拠出するのが妥当か、という問題なのです。本来JRがどう考えるかというのは、あまり関係ないのです。

 JRの負担拒否姿勢が行き過ぎて「JRは旅客が増えて収益が改善されるのに、1円も払わない。じゃあ、空港駅なんか作るのやめてしまえ」という議論になりはしないか、と私は不安です。地域住民にとっては、せっかくの空港アクセス手段がなくなりますし、JRも年間数百万(受益の一部を還元した後)という微々たる額とはいえ、収益元をなくすことになります。

 利用者の利便性を考えると、JRも受益の範囲内で応分の負担をした上で、B案にする、というものが一番いいと思います。


空港新駅の開業は、境線存続の保険

 あと、地元の立場から見ると、空港新駅の開業は、「境線存続への保険」的に考えてもいいかも知れません。

 可部線の廃止問題が持ち上がったように、これから地方ローカル線の廃止問題が続々と持ち上がってくる可能性があります。境線は、輸送密度3,000人強、輸送人員6,000人強(いずれも推計)とローカル線にしては、かなりの輸送実績を上げている線ですが、赤字であることには代わりなく、その推計額は年間6億円以上(HITの推計による)。この額は、廃止問題が上がっている可部線の年間赤字額と同じです。境線が廃止対象にならないという保証はどこにもありません。

 境線が廃止にならないためには、赤字額を少しでも減らすために地元も最大限の協力をすること。空港新駅の開業は、格好の材料だと思います。県がA案で押し通し、境線を現在位置で地下化したとしても、境線自体が廃止になってしまえば、県が投下した60億円は全くのムダになってしまいます。JRが押すB案を採用すれば、いくらJRでも自らが主張した案を採用した境線を早々には廃止できないでしょう。

 そう考えれば、10-15億円(B案とA案との差額)の投資は、旅客の利便性を確保した上での保険とすれば、安いものだと思うのですが...。


空港新駅の形態予想

 私の予想では、空港駅は、A案であろうとも、B案であろうとも、空港新駅部分は地下駅ではなく、天井がない「掘割駅」になると思います。滑走路やエプロンの下ではないので、無理に埋め戻す必要がないからです。これなら、非電化でディーゼルしか走っていない境線でも、消防法上もクリアできますし、詰め所も必要ありません。工事費もおもいっきり安くできます。

 合理化を図る必要がある境線で、職員を新たに張り付けることは考えにくいので、多分、空港駅は無人駅となるでしょう。空港ビルに発券を委託すれば、利用者の利便性はほぼ確保できますし。実際には、空港ターミナルに、切符の自動販売機を置くだけ、というのが、一番ありそうなシナリオだと思います。

 米子空港新駅の利用者数は、多くても、当初1日100人強です。米子空港の利用客が増えて、鉄道アクセスへの認知が進んで、利用者が増えたとしても、1日400人を越えることはないと踏んでいます。

 境線の1日平均利用者数が6,000人強ですから、15駅で割ると、一駅平均400人強です。大半の駅(13駅。有人は、後藤と境港のみ。)が無人である現状の境線の平均を米子空港新駅の利用予定数は、大分下回っていますから、無人駅でも十分対処できそうです。

 結局、以下の仕様が妥当ではないでしょうか。

・掘割
・無人駅
・ホームと空港ビル内の自動券売機設置

 あと、空港新駅に絶対必要な施設というと、「エレベータ・エスカレータ」でしょうか。無人駅にエレベータ・エスカレータというと、ちょっと違和感があるでしょうが、荷物の多い航空旅客をターゲットにする駅ならば、絶対に必要です。動く歩道が公費で整備できるのならば、エレベータ・エスカレータだって、公費で整備できない訳がありません。エレベータ・エスカレータが駅構内にあるとすると、JRに負担が生じますから、エレベータは、駅までの連絡通路(道路)ということにしてしまえば、いいのです。(ちょっと卑怯かな)


割増し運賃の可能性

 鉄道利用者の追加負担の程度については、現在の空港連絡バスの運賃(米子駅-空港間570円)がある程度の目安になると思います。現状のまま加算運賃を取らないとすると、境線で米子-米子空港間はたったの230円です。実にバスの60%引となる訳で、割安感は否めません。空港アクセス鉄道は、連絡バスをつぶすためにある訳ではなく、利用者の選択の幅を広げるためにある訳ですから、100-150円程度の追加料金は、バランスのよい競争を行う上でも、必要だと思います。150円の上乗せ料を追加しても、380円に過ぎず、連絡バスの2/3という安さですから、十分に競争力はありますし。

 ただ、「自家用車利用」客を積極的に取り込もうと思ったら、230円を維持する必要があるでしょう。

 しかし、割増し運賃を取ろうとすると、やっかいな問題が出てきます。確かに、最近開業した鉄道新線などは、正規運賃に割り増しして追加料金を徴収している区間も多いです。でも、それらは、「区間」に対して割増運賃を徴収する「割増区間」として設定されています。

 ところが、境線の米子空港新駅は、A案ならば単なる新駅開業。B案にしたところで、ちょっとしたう回工事に伴う新駅開業であり、「割増区間」を設定することができません。新線ではなく、中間駅であるために、運行頻度や運行コスト面で有利な米子空港新駅ですが、利用者負担を課そうと思ったら、それらの利点が逆に欠点になってしまいました。

 でも、割増運賃を取る方法がない訳ではありません。「割増駅」を設定し、この駅の乗降客のみに、追加運賃を払ってもらうのです。(もちろん、切符代に込みで。)今までにない方法ですが、不可能ではないでしょう。途中下車の扱いですが、差額(割増運賃分)を下車時に徴収すれば、なんら問題なく、平等に割増運賃が徴収できます。

 無理に、割増運賃を取る必要はありませんが、適度の受益者負担は、健全で合理的な公共事業運営には必要ですから、新駅完成までの間には、良く検討して見る必要があると思います。


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